DRAGONS OF AUTUMN TWILIGHT p261
“What is it, little one?”
Bupu rolled over to face him. Her eyes were red, her nose swollen. Tears streaked down her dirty face. She snuffled and wiped her hand across her nose.
戦記1巻 p456
「どうしたの、おちびさん?」
ブープーはくるりとかれのほうを向いた。目が真っ赤で、鼻が腫れている。汚れた顔に涙が筋を引いている。彼女はすすり上げて手で鼻を拭いた。
“I don’t want to leave you. I want to go with you,” she said brokenly, “but--oh--I will miss my people!” Sobbing, she buried her face in her hands.
「あなたと、はなれるの、いや。あなたと、いっしょにいきたい」彼女はとぎれがちにしゃべった。「でも――ぐすん――なかまとわかれるの、さびしい!」しゃくりあげながら、彼女は両手に顔を埋めた。
A look of infinite tenderness touched Raistlin’s face, a look no one in his world would ever see. He reached out and stroked Bupu’s coarse hair, knowing what it felt like to be weak and miserable, an object of ridicule and pity.
レイストリンの顔にかぎりなく優しい表情が浮かんだ。かれのまわりにいる者が誰も見たことのない表情だった。かれは手をのばしてブープーのごわごわした髪をなでた。弱くて惨めであることが――嘲りと哀れみの対象であることがどんなものであるのか、かれは知っていた。
***
“infinite tenderness”
“no one in his world”
…噛み締めてます。
“Bupu,” he said, “you have been a good and true friend to me. You saved my life and the lives of those I care about. Now you will do one last thing for me, little one. Go back. I must travel roads that will be dark and dangerous before the end of my long journey. I cannot ask you to go with me.”
「ブープー」と、かれは言った。「君はぼくに対して、心からのよい友だちでいてくれた。ぼくの命も、ぼくが気にかけている人たちの命も救ってくれた。さあ、ぼくの最後のお願いだ、おちびさん、戻るんだ。ぼくはまだこれから長い旅をして、暗くて危険な道を通らなくてはいけない。君についてきてくれとは頼めないんだ」
***
“roads that will be dark and dangerous”この時どこまで先を見ていたのでしょうね、かれは。
Bupu lifted her head, her eyes brightening. Then a shadow fell across her face. “But you will be unhappy without me.”
“No,” Raistlin said, smiling, “my happiness will lie in knowing you are back with your people.”
“You sure?” Bupu asked anxiously.
“I am sure,” Raistlin answered.
ブープーは顔をあげた。目が明るくなっている。しかし、彼女は顔をくもらせた。「でも、おらがいないと、あなた、ふしあわせ」
「大丈夫」レイストリンはほほえんだ。「ぼくは、君が無事に仲間のところへ戻ってくれるのが幸せなんだ」
「ほんと?」ブープーが身をのりだす。
「本当だ」レイストリンは答えた。
“Then I go,” Bupu stood up, “But first, you take my gift.” She began to rummage around in her bag.
“No, little one,” Raistlin began, remembering the dead lizard, “that’s not necessary--“
「なら、おら、いく」ブープーは立ちあがった。「でも、そのまえにおくりもの、もらって」彼女は袋の中をかきまわしはじめた。
「いいよ、おちびさん」レイストリンは、トカゲの死骸を思い出して、言いかけた。「そんなことしなくても――」
The words caught in his throat as he watched Bupu pull from her bag--a book! He stared in amazement, seeing the pale light of the chill morning illuminate silver runes on a night-blue leather binding.
言葉は喉でつまった。ブープーが袋から取り出したもの――それは本だった!かれは驚きに目をみはった。冷たい朝の光が、夜藍色をした皮表紙の銀のルーン文字を照らしている。
Raistlin reached out a trembling hand. “The spellbook of Fistandantilus!” he breathed.
“You like?” Bupu asked shyly.
“Yes, little one!” Raistlin took the precious object in his hands and held it lovingly, stroking the leather. “Where--“
レイストリンは震える手をのばした。「フィスタンダンティラスの呪文書!」かれは息をのんだ。
「これ、すき?」ブープーがはにかみながら言う。
「うん、おちびさん!」レイストリンは貴重な品を両手に取って、愛おしそうに皮表紙をなでた。「どこで――」
“I take from dragon,” Bupu said, “when blue light shine. I glad you like. Now, I go. Find Highbulp Phudge I, the great.” She slung her bag over her shoulder. Then she stopped and turned. “That cough, you sure you not want lizard cure?”
“No, thank you, little one,” Raistlin said, rising.
「どらごんのところから。あおいひかり、でたとき。あなたがこれすきで、おら、うれしい。じゃあ、もういくね。バルプ大王ファッジ一世、みつける」彼女は袋を肩にかけた。と、立ち止まってふり返る。「あのせき――あなた、トカゲのくすり、ほんとにいらない?」
「大丈夫だよ、ありがとう、おちびさん」レイストリンは立ちあがった。
Bupu looked at him sadly, then--greatly daring--she caught his hand in hers and kissed it swiftly. She turned away, her head bowed, sobbing bitterly.
ブープーは悲しそうにかれを見ていたが――勇気をふりしぼり――両手でかれの手を包みこんで素早くキスした。彼女はうつむいて顔をそむけ、激しくしゃくりあげた。
***
他の種族に不潔とみなされ、「おら、かわいくないの、しってる」ブープーが、どれほどの勇気をふりしぼったことでしょう。レイストリン以外の誰が、心からそれを受け容れられたでしょう。
Raistlin stepped forward. He laid his hand on her head. If I have any power at all, Great One, he said inside himself, power that has not yet been revealed to me, grant that this little one goes through her life in safety and happiness.
レイストリンは足を踏み出した。彼女の頭に手を置く。心の中でかれは言った。大いなる方よ、もしぼくに力が――まだ明かされていない力があるものならば、どうかこの小さき者につつがなく幸せな生涯を送らせ給え。
***
ここでレイストリンが呼びかけている“Great One”とはおそらく、まだこの時点ではその正体がわかっていない謎の声の主でしょう。
この”grant”はただの願いにとどまらず、実際に効力を発揮しています。まばゆい光がブープーを暖め、そして彼女の家路を守りました。その力は一体どこから来たのでしょうか?謎の声の主、フィスタンダンティラスがそんな気を遣ってくれる筈はないですね。そして神々でもないでしょう、なんであれレイストが神に祈っていないことは確かですから。
それは、たぶん、ドラゴンオーブの支配からかれを守ってくれたその力なのではないでしょうか。だとしたら、大パー=サリアン、やはりあなたは間違っていたのです。(この続きは伝説1巻のあのシーンで語ります)
“Farewell, Bupu,” he said softly.
She stared at him with wide, adoring eyes, then turned and ran off as fast as her floppy shoes would carry her.
「さようなら、ブープー」かれは静かに言った。
彼女は憧れをこめた大きな瞳でかれを見つめた。そして、背を向けると、がばがばの靴で精いっぱい急いで駆け去った。