2015年1月15日木曜日

戦記5巻p345〜 影絵

DRAGONS OF SPRING DAWNING p190

They don’t understand. They don’t need me. Even Tika doesn’t need me, not like Raist needed me.

戦記5巻p345

 だが、かれらにはわかっていないのだ。かれらはおれを必要としていない。ティカでさえおれが必要ではない――レイストがおれを必要としたようには。

They never heard him wake screaming in the night when he was little. We were left alone so much, he and I. There was no one there in the darkness to hear him and comfort him but me.

 かれらは、あいつが子供のころ夜中に悲鳴を上げて飛び起きるのを聞いたことがないんだ。おれたちはいつだってふたりきりだった。おれとあいつと。暗闇の中であいつの悲鳴を聞きつけてなだめてやるのは、おれしかいなかった。

He could never remember those dreams, but they were awful. His thin body shook with fear. His eyes were wild with the sight of terrors only he could see.

 あいつは悪夢の内容は一度も思い出せなかったが、それでも凄まじい夢に間違いなかった。あいつの華奢なからだは恐怖で震えていた。ほかの者には見えない悪鬼を映した眼は、半狂乱で血走っていた。

He clutched at me, sobbing. And I’d tell him stories or make funny shadow-pictures on the wall to drive away the horror.

 あいつはおれにしがみついてすすり泣いた。そんなとき、おれは恐怖を忘れさせるために、お話を聞かせたり、壁に滑稽な影絵を映してやったりしたものだ。

“Look, Raist,” I’d say, “bunnies…” and I’d hold up two fingers and wiggle them like a rabbit’s ears.

「ごらん、レイスト」とおれは言ったものだ。「うさ公だよ……」そうして、指を二本立てて、うさぎの耳のようにぴくつかせる。

After a while, he’d stop trembling. He wouldn’t smile or laugh. He never did either, much, even when he was little. But he would relax.

 しばらくすると、あいつの震えはとまる。にっこりしたり、声をあげて笑ったりはしない。あいつは小さい頃でさえ、どちらもあまりしなかった。それでも、あいつの緊張は和らいだものだ。

“I must sleep. I am so tired,” he’d whisper, holding my hand fast. “But you stay awake, Caramon. Guard my sleep. Keep them away. Don’t let them get me.”

「ぼくは眠らなくっちゃ。とっても疲れてるんだ」あいつはおれの手をぎゅっと握りながらささやく。「でも、キャラモンは起きていてくれる?ぼくの夢を守っていてよ。悪い夢が近づかないように。悪い夢にぼくをつかまえさせないでね」

“I’ll stay awake. I won’t let anything hurt you, Raist!” I’d promise.

「起きていてやるとも。どんなものにもおまえを傷つけさせたりするものか、レイスト!」おれは約束したものだ。

Then he would smile--almost--and, exhausted, his eyes would close. I kept my promise. I would stay awake while he slept.

 そうすると、あいつはほほえんで――ほほえみらしきものを浮かべて――そして、ぐったりと疲れきり、瞼を閉ざすのだ。おれは約束を守った。おれはあいつが眠っている間、ずっと起きていた。

And it was funny. Maybe I did keep them away, because as long as I was awake and watching, the nightmares never came to him.

 そして、おかしなことだが、本当におれが悪夢を追い払っていたらしい。というのも、おれが起きて見張っているかぎり、悪夢は決してあいつのもとにやってこなかったからだ。

Even when he was older, sometimes he’d still cry out in the night and reach out to me. And I’d be there. But what will he do now? What will he do without me when he’s alone, lost, and frightened in the darkness?

 あいつはもっと大きくなってからでも、時々、夜中に悲鳴をあげて、おれを手探りした。そして、おれは必ずそこにいた。だが、これからあいつはどうするのだろう?おれなしでどうするのだろう、独りぼっちで、途方に暮れて、闇に怯えたときには?

What will I do without him?

 そして、おれは、あいつなしでどうするのだろう?

***

“Look, Raist,”
“bunnies…”

 ここでは「ごらん、レイスト」「うさ公だよ……」
 伝説6巻では「ほうら、レイスト、ウサちゃんだよ……」
 些細なことですね。でも気になって、邦訳原書共々該当シーンを読み比べていて、ふと思いました。

 レイストリンの見ていた、内容を思い出せない悪夢とは何だったのでしょう?

 そして伝説6巻。何がレイストリンを<暗黒の女王>の責め苦から守ったのでしょう?

「受け継ぎし者」でキャラモンは、レイストリンの自己犠牲がパラダインの御心に適ったからだと語っています。しかし。しかしですよ。そうだとしたらこの影絵の意味するところは何なのでしょう?

 私はこう思っています。
 責め苦はあったのです。
 かれは確かにそれを受けていたのです。

 幼い頃に、夢の中で。

 因果律とか面倒な話はいっさい棚上げした妄想です。幼いレイストリンを苦しめた悪夢とは、遠い将来、奈落において受けるはずだった責め苦の先取りだったのではないでしょうか。だから、うさぎの影絵でお祓いできてしまうのです。だから、キャラモンが起きて=生きてかれを想っている限り、かれの眠りは守られているのです。

 年末からこっち、原文紹介という主旨からどんどん外れて妄想爆発してますが、ふふふ、こうなることは判っていたさ、自分のやることだもの。「伝説」に入ったらさらにやばいことになりそうですよ。

2 件のコメント:

  1. 原文でさえ可愛いのに、日本語版の幼少レイストの話し方はキュン死レベルです。あんな風に言われて誰がnoと言えるでしょうか。しかも「もっと大きくなってからでも、時々、夜中に悲鳴をあげて、おれを手探りした」とは・・・!
    幼い頃の怖い夢がアビスでの苦悶の前倒しとは、興味深い説です。「伝説」の双子考察、とても楽しみにしています。

    返信削除
  2. キャラモンにとってレイストリンは、伝説2巻に至るまで、ずっとこのように見えていたんでしょうね。そりゃ皮肉言われようが何されようが可愛いはずです。
    夢の話は、ふとした思いつきがなんだか自分の中で確定になってしまいました。子供の頃とそっくり同じ、レイストリンの安らかな寝顔が目に浮かびます。

    返信削除