Caramon ran to his brother and lifted the frail body in his strong arms. Ignoring Raistlin’s frantic pleas to leave him alone, the warrior began to carry his twin from this evil Tower.
戦記5巻p314
キャラモンは弟のもとに駆け寄り、細いからだをそのたくましい腕に抱き上げた。放してくれ、と半狂乱で抗うレイストリンの哀願を無視して、戦士は双子の弟をこの悪辣な塔から運び出そうとした。
What happened then made no sense. The watching Caramon blinked in astonishment. He saw himself cast a magic spell!
つづいて起こった出来事は、常識を超えていた。見守っているキャラモンは、仰天して目を瞬いた。かれは、自分が魔法の呪文をかけるのを見たのだ!
Frightened and confused, Caramon turned back to watch.
He saw Raistlin rise slowly.
“How did you do that?”
驚き、混乱して、キャラモンはふり返り、そして見た。
レイストリンがゆっくりと立ち上がっていた。
「どうしてあんな術が使えたの?」
“No, Raistlin!” the real Caramon cried. “It’s a trick! A trick of this old man’s! I can’t do that! I’d never steal your magic from you! Never!”
「ちがう、レイストリン!」現実のキャラモンは叫んだ。「それはまやかしだ!この爺さんの企んだまやかしだ!おれにはあんな術は使えない。おれは絶対におまえの魔法を盗んだりはしていない!誓う!」
But the image Caramon, swaggering and brash, went over to “rescue” his “little” brother, to save him from himself.
しかし、幻影のキャラモンは――偉そうにいばり返って――“かよわい”弟を“救い”に、弟を弟自身から助け出しに行った。
Raising his hands, Raistlin held them out toward his brother. But not to embrace him. No. The young mage, sick and injured and totally consumed with jealousy, began to speak the words of the one spell, the last spell he had strength to cast.
レイストリンは両手をあげると、兄に向けた。しかし、それは兄に抱きつくためではなかった。否。若い魔法使いは、疲労と負傷に加えて嫉妬のあまり、前後の見境を失っていた。かれは残る体力をふりしぼって、最後の呪文を唱えはじめた。
Flames flared from Raistlin’s hands. The magical fire billowed forth, and engulfed his brother.
Caramon watched with horror, too stunned to speak, as his own image was consumed in fire….He watched as his brother collapsed onto the cold stone floor.
炎がレイストリンの両手から噴き出した。魔法の火が轟音をたてて走り――そして、かれの兄をのみこむ。
見ていたキャラモンは恐怖に包まれ、衝撃で言葉もなかった。かれの眼前で、かれの幻影が火に焼きつくされる……そして、弟は冷たい石の床にくずおれた。
***
打ち込みながら泣きそうになりました。やはり、より深く傷ついたのはレイストリンの方だと思います。
そもそも、人間が極限状態におかれたときの行動を責めることができるでしょうか。聞き伝えですが、こんな話があります。太平洋戦争末期、本土が空襲や機銃掃射に見舞われていた頃。必死で子供を抱いて逃げようとしたある親は、いよいよ銃撃が間近に迫ってきたとき、とっさに子供を自分の体の盾にしてしまったそうです。その親がその後の人生を、何を思って生きてきたか。子供心にずしりと重い話でした。
小説ですが、中学の国語の教科書に載っていた「夏の葬列」という物語もあります。関心のある方はぐぐってみてください。
レイストリンの場合は生命の危機ではありませんが、しかし生命よりも大事なものを奪われようとしていたのです。健康で、人気があって、自分にないあらゆるものを持っていた兄に、自分の持っていた唯一のものを。かれは兄を愛していなかったのかと問いますか?そもそも愛のない所に憎しみも存在し得ましょうか。
私が同じ状況下におかれても、同じことをしていたはずです。自分だけのもの、自分の存在が拠って立つものを奪われそうになったら。
ゲーム中でも、前衛キャラが何らかの手段で魔法みたいなものを行使すると、魔法使いキャラとして鬱屈した気分になります…自身、例えばウィザードリィで、戦闘中暇な後衛シーフに炎の杖使わせて雑魚焼きながら、不服げなメイジを「君の出番はまだあとだから!我慢して!」と(心の中で)必死になだめていました。
このような気分を「大審問症候群」と名付けた鳥里悠一@u1_krsztさんに拍手です(引用:ご本人了承済み)
ドラクラプレイ中、パーティにいるファイターが指輪やスクロールで電撃やら火球やら使うと(……やめろ……やめろよおおぉ!!何で?どうやってアンタが魔術を使ったんだよ!?)ってなるのを大審問症候群と名付けました。言うまでもなく自キャラはウィザード。 #竜槍脳
— 烏里悠一 (@u1_krszt) 2014, 1月 21
うまくリンク張れなくて、「ツイートのサイト埋め込み」を利用しました。私のアカウントからもRTしておきますね〜。
ちょうど「魂の鍛錬」の大審問のパートを読み返していた所です。魔法を馬鹿にされて逆上したにせよ、そこまでしてレイストリンの魂を抉る必要があったのか。たった1つの才能を奪われてしまった彼の怒りに、読んでいて悲しくなりました。
返信削除「魂の鍛錬」にもこのシーンが出てくるのですね。「英雄伝」にも「双子の大審問」という話がありましたが今回はあえて読み返しませんでした。それにしても白ローブの長ときたらもう!同じ目に遭わせてやりたくなります。
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