2015年1月31日土曜日

戦記6巻p148〜 叱咤

DRAGONS OF SPRING DAWNING p296

He feigned unconsciousness, however, not knowing what else to do. Why wasn’t Tanis here, he thought despairingly, once more cursing his own slowness of mind.

戦記6巻 p148

 しかし、かれは失神したふりをつづけた。ほかにどうすればよいかわからなかった。なぜタニスはここにいないのだろう、とかれは歯痒く重い、またもや自分の頭の回転の鈍さを呪った。

Then, quit belly-aching, you big ox! They’re depending on you! Came a voice in the back of his mind. Caramon blinked, then caught himself just as he was about to grin. The voice was so like Flint’s, he could have sworn the dwarf was standing beside him!

 そのとき、(愚痴はやめんか、この鈍牛!みんなおまえに頼ってるんだぞ!)という声が頭の奥で聞こえた。キャラモンは瞬きをし、苦笑しかけて慌てて気をひきしめた。その声があまりにもフリントらしくて、かれはあの<老ドワーフ>がかたわらに立っているような気がした。

Then he froze, watching in amazement as Berem lurched forward, grabbed Gakahn, and lifted him off the stone floor. Carrying the wildly frailing draconian in his hands, the Everman hurtled out of the jail cell and smashed Gakahn into a stone wall.

 そして、かれは凍りついた。驚いたことに、ベレムがだっと跳び出すや、ゲイカーンをつかんで石の床から持ちあげたではないか。ベレムは四肢をばたつかせて抵抗するゲイカーンを両手で抱えると、牢の外の石壁に力いっぱい投げつけた。

The draconian’s head split apart, cracking like the eggs of the good dragons upon the black alters.

 ドラコニアンの頭が砕け散る――あたかも、善竜たちの卵が悪の祭壇の上で割れたように。

“She calls me!” Berem whispered hoarsely.

「彼女がおれを呼んでいる!」ベレムはかすれた声でささやいた。

“I’ve got a plan. We must split up. Tas and I will draw them off.”

“Hurry, Caramon! You’re the only one strong enough to protect him. He needs you!”

「わたしに考えがあるわ。ここで分かれましょう。わたしとタッスルは追っ手を引きつけておく」

「急いで、キャラモン!ベレムを守るにはあなたの力が必要よ。かれにはあなたが必要なのよ!」

“Tika…” he began, trying to think of some argument against this wild scheme. But before he could finish, Tika kissed him swiftly and--grabbing a sword from a dead draconian--ran from the jail cell.

“I’ll take care of her, Caramon!”

「ティカ……」かれは、この乱暴な計画に何か反論する言葉はないものかと探りながら口を開いた。しかし、言い終わらないうちに、ティカが素早くかれにキスをし、そして――死んだドラコニアンから剣を奪うと――牢から駆け去ってしまった。

「ティカにはぼくがついてるからね、キャラモン!」

***

 ティカ、凄いよティカ。囚人護送車で初めて矢を射かけられたときからずっと、悲鳴も上げず、表だって泣きごとも言わず。この後もずっと「伝説」まで苦労し続けるかと思うと…本当キャラモンにはもったいない嫁です。


“I am alone…”

“No, there’s Berem. He’s alone, too. Tika’s right. He needs me now. He needs me.”

(おれは一人きりだ……)

(いや、ベレムがいる。かれも一人きりだ。ティカの言ったとおりだ。今、かれにはおれが必要なんだ。おれが必要なんだ)

***

 鈍牛キャラモン、”need”という言葉は二回繰り返されないと把握できないようです。ね、この時も。

“I don’t need you any more! I don’t need you!”


His mind clear at last, Caramon turned and ran clumsily down the northern corridor after the Everman.

 ようやく心が晴れて、キャラモンは身を返し、<永遠の男>を追って北側の回廊をぎこちなく走りはじめた。

2015年1月30日金曜日

戦記6巻p143〜 謁見の間

DRAGONS OF SPRING DAWNING p293

All around the domed ceiling, in alcoves similar through smaller than the Highlords’ alcoves, perched the dragons. Almost invisible, obscured by their own smoking breath, these creatures sat opposite their respective Highlords’ alcoves, keeping vigilant watch--so the Highlords supposed--upon their “masters”.

戦記6巻p143

 丸天井を取り囲むように、各ドラゴン卿の壁龕ほど大きくはないが、同様の壁龕があり、その中に邪竜たちが止まっていた。自身の出す煙った息のせいでほとんど姿は隠れているが、邪竜たちはそれぞれ自分のドラゴン卿の壁龕の対面に坐し、“主”のために警護怠らぬ眼を――とドラゴン卿たちは思っていた――配っていた。

Actually only one dragon in the assemblage was truly concerned over his master’s welfare. This was Skie, Kitiara’s dragon, who--even now--sat in his place, his fiery red eyes staring at the throne of Ariakas with much the same intensity and far more visible hatred than Tanis had seen in the eyes of Skie’s master.

 しかし現実には、この集団の中で本当の主の利を考えているのは、ただ一頭だけだった。それがスカイア――キティアラの騎竜である。スカイアは、たった今も、自分の座から燃えるような赤い眼でアリアカスの玉座を睨み据えていた。その眼には、タニスが先刻スカイアの主の眼に見たのと同じような激しさと、そしてさらに露骨な憎悪がうかがえた。

***

 三回前で「ソス卿が生身の男性だったら良かったのに」と語りましたが、ここは、スカイアが人間だったら良かったのに!と叫びます。ギルサナスとシルヴァラがありなら、キティアラとスカイアもありでしょ?スカイアとしては、「キティアラがドラゴンでないのが残念(青いドラゴン女卿の竜)」とか「彼女が女神だったら(魂の戦争)」と思っているようですが。この世界のドラゴンは魔法で人型になれるんだから、ここは君のほうが譲歩しましょうよ、ねえ。

(独り言:人型スカイアとキティアラのファンアートなんてどこかにないかなあ…)


“The Crown of Power,” Kitiara murmured, and now Tanis saw emotion in her eyes--longing, such longing as he had rarely seen in human eyes before.

「<力の冠>だ」キティアラがつぶやく。彼女の眼が熱っぽく光るのがタニスに見えた。切望の眼――人間の眼にこれほどの切望が宿るのを、かれは稀にしか知らなかった。

“’Whoever wears the Crown, rules,’” came a voice behind her. “So it is written,”
Lord Soth. Tanis stiffened to keep from trembling, feeling the man’s presence like a cold skeletal hand upon the back of his neck.

「『この<冠>をつけたる者こそ支配者なれ』」彼女の背後から声がした。「そう書かれている」
 ソス卿である。タニスは震えまいと身を固くした。ソス卿の存在は、まるで冷たい骸骨の手でうなじを触られるようだった。

“Fetch the elfwoman,”

“You promised!”

Staring him coldly, Kitiara snatched her arm free, easily breaking the hakf-elf’s strong grasp. But her brown eyes held him, drained him, sucking the life from him until he felt like nothing more than a dried shell.

「例のエルフ女をここへ」

「君は約束したな!」

 キティアラは冷ややかな目を向けると、かれの力のこもった手をたやすく振りほどいた。しかしそのとび色の眼はタニスを見据えたまま、かれの生気を吸い上げ、吸いつくしてゆき、ついには、かれは自分が干からびてしまったように感じた。

***

 すみません、”Fetch”と言われてMac用のFTPソフトを連想しました。ファイルをくわえて走ってくるビーグル犬のアイコン…ああソス卿の怖さが台無し。


“But I want your word of honor, Tanis Half-Elven, that you will return to me.”
“I give it,”

「だが、名誉にかけて誓えよ、ハーフ・エルフのタニス、必ずわたしのもとへ戻ってくると」
「誓うとも」

Kitiara smiled. Her face relaxed. It was so beautiful once more, that Tanis, startled by the sudden transformation, almost wondered if he had seen that other cruel face at all.

 キティアラが微笑した。表情が緩む。その顔が再び見事なあでやかさを取り戻したので、タニスはその急変貌ぶりに驚き、先ほどまでの残酷な裏の顔を本当に見たのだろうかと訝りたくなった。

Turning, she saw Lord Soth enter the antechamber, his guards bearing a white-wrapped body in their fleshless arms. The eyes of the vibrant, living woman and the vacant eyes of the dead knight met in perfect agreement and understanding.

 ふり向くと、ソス卿が控えの間にはいってきたのだった。かれの護衛たちの骸骨の腕には、白い布に包まれた人体が抱えられている。生気のみなぎる女戦士の眼と、亡霊の騎士の虚ろな眼が合い、完璧な理解と合意を示した。

Lord Soth bowed.
Kitiara Smiled, then--turning--she entered the Hall of Audience to thunderous applause.

 ソス卿が一礼する。
 キティアラは微笑し、そして――向き直ると――謁見の大広間へ、大歓声を浴びながら入場した。

2015年1月29日木曜日

戦記6巻p132〜 地下牢

DRAGONS OF SPRING DAWNING p287

But there was death here, Tas knew; death and suffering. He’d seen too many die, too many suffer. His thoughts went to Flint, to Sturm, to Laurana….

戦記6巻p132

 しかし、ここにあるのは“死”だ、とタッスルにはわかっていた。死と苦しみ。かれはあまりにもたくさんの人々が死に、あまりにもたくさんの人々が苦しむのを目にしてきた。フリント、スターム、ローラナ……。

Something had changed inside Tas. He would never again be like other kender. Through grief, he had come to know fear; fear not for himself but for others. He decided right now that he would rather die himself than lose anyone else he loved.

 タッスルの内部では何かが変わってしまっていた。かれはもう二度とほかのケンダーのようにはなれないだろう。悲嘆というものを通して、かれは恐れを知るようになったのだ。かれはこの瞬間、これ以上自分の愛する人を失うくらいなら死んだほうがましだと決意した。

You have chosen the dark path, but you have the courage to walk it, Fizban had said.

『おまえは暗い道を選んだ。だが、おまえにはその道を歩ける勇気がある』とフィズバンは言っていた。

Berem did indeed seem to have gone mad. Obvious to pain, he flung himself at the iron bars, trying to break them open.

“I’m coming, Jasla!”
“Don’t leave! Forgive--“

 ベレムは確かに狂ったように見えた。痛みにも気づかないように鉄格子に体を打ちつけ、押し破ろうとする。

「今行くよ、ジャスラ!」
「待ってくれ、どうか許して――」

Tas could guess what was going through the creature’s thick mind. If this big officer was a personal friend of the Dark Lady, she would certainly not look kindly on a jailor who allowed one of her close friends to be murdered in his prison cell.

 タッスルは、看守が鈍い頭で何を考えめぐらしているのか想像できた。もしこの大男の士官が本当に<暗黒の女卿>の個人的な友人だったら、<女卿>は、近しい友人の一人を牢の中で殺させたような看守には、間違ってもあたたかい目を向けはすまい……。

“What do you want?”
“I am Gakhan,” said the voice.

「何か用か?」
「おれはゲイカーンだ」

With a twist of its clawed hand, the draconian ripped Berem’s shirt to shreds.

“It is he,”
“Unlock the cell.”

 鉤爪の手をひとひねりさせて、ドラコニアンはベレムのシャツをずたずたに引き裂いた。

「こいつだ」
「扉を開けろ」

“Kill him”--the draconian motioned at Caramon--“and the girl and the kender.”

“I will take this one to Her Dark Majesty.” The draconian flashed triumphant glance around at the others.
“This night, victory is ours,”

「やつを殺せ」――とゲイカーンはキャラモンを指さし――「それにその娘とケンダーも」
「おれはこの者を<女王>陛下のもとへ連れて行く」かれは勝ち誇った眼で周囲の者を見まわした。
「今宵、勝利は我らのものぞ」

***

 この辺りから、タニスのシーンとキャラモンのシーンが交互に終末へと向かっていく展開が、何度読んでも緊張します。ベレムをもっと取り上げておくんだったなあ。

2015年1月28日水曜日

戦記6巻p123〜 ゲイカーン

DRAGONS OF SPRING DAWNING p281

Though Gakhan held no rank in the dragonarmy--not any more--he was known officially as the Dark Lady’s military aide. Unofficially he was known as her personal assassin.

戦記6巻p123

 ゲイカーンはドラゴン軍中に――もはや――階級をもたなかったが、公式には<暗黒の女卿>の軍事顧問として知られていた。そして非公式には、彼女の私的暗殺者として。

But two Highlords did take the disappearance of the staff seriously: one who ruled that part of Ansalon where the staff had been discovered, and one who had been born and raised in the area.

 しかし、杖の失踪を重大視するドラゴン卿が二人いた。一人は、アンサロン大陸の杖が発見された地域を支配している者であり、もう一人は、その地域で生まれ育った者である。

They reacted differently, perhaps because of location.
Kitiara sent Gakhan.

 二人の反応は正反対だった。おそらく、管轄域の違いであろう。
 キティアラが派遣したのはゲイカーン一人だった。

He brought complete descriptions of the adventurers to Kitiara, who was startled to learn that they were her two half-brothers, her old comrade-in-arms, and her former lover.

 かれはその冒険者集団の完璧な人相をキティアラのもとへ持って帰った。キティアラはそれが自分の二人の異父弟であり、古い戦友であり、かつての恋人であることを知って驚いた。

***

「古い戦友」”comrade-in-arms”、”friend”ではないのですね。


Immediately Kitiara saw the workings of a great power here, for she knew that this group of mismatched wanderers could be forged into a dynamic force for either good or evil.

彼女は即座に、これには何か大きな力が働いているものと見て取った。その不ぞろいな放浪家の一団は、鍛え上げれば、善かれ悪しかれ非常な機動性を持ちうるからである。

Kitiara set Gakahn back on the trail. Step by step, the clever draconian traced the companions from Pax Tharkas to the dwarven kingdom. It was he who followed them in Tarsis, and there he and the Dark Lady would have captured them had it not been for Alhana Starbreeze and her griffons.

 キティアラはゲイカーンを追跡に戻した。才気のあるこのドラコニアンは、一歩一歩着実に、一行がパックス・タルカスからドワーフ王国へ進んだことを確かめていった。タルシスで一行を尾けていたのもかれであり、もしアルハナ・スターブリーズと彼女のグリフォンたちさえいなければ、かれと<暗黒の女卿>はタルシスで一行を捕えていただろう。

Patiently Gakahn kept on their trail.

It was Gakhan who followed Tanis in Flotsom, and who was able to direct the Dark Lady to them aboard the Perechon.

 辛抱強く、ゲイカーンは一行の足跡を辿った。

 フロットサムでタニスを尾けたのもゲイカーンであり、一行がペレチョン号に乗り組んだことを<暗黒の女卿>に伝え得たのもかれである。

***

 ここへ来て名前が出た、かの「酔い潰れたドラコニアン」ゲイカーン。
 省略しましたが、この間のかれの活躍を見るに、シルヴァネスティからフロットサムまでの行程、タニスがまだ双子たちとともに旅していることを報告しなかったのは何故でしょうね?仮に途中で見失うことがあったとしても、バリフォールの<赤い魔術師の大幻術団>の噂は嫌でも耳に入っただろうと思うんですが。

2015年1月27日火曜日

戦記6巻p118〜「かれの愛など欲しくもない」

DRAGONS OF SPRING DAWNING p278

“You have not forgotten our bargain?”

戦記6巻p118

「わたしとの取り引きを忘れたわけではあるまいな?」

“The elfwoman will be yours when the Queen has finished with her, of course.”
“Of course. I would not want her otherwise. A living woman is of no use for me, not like a living man is of use to you….” The dark figure’s voice lingered unpleasantly over the words.

「あのエルフ女は其方にやるとも――もちろん、女王のご用済みとなったあとでな」
「当然だ。それでなくては。生身の女はわたしには無用の長物だ――そなたが生身の男を重宝するのとは違う……」黒い人影の声は不快に空中に漂っていた。

“Don’t be a fool, Soth,”
“I am able to separate the pleasures of the flesh from the pleasures of business--something you were unable to do, from what I know of your life.”

「馬鹿を言わないでおくれ、ソス」
「わたしは私的な愉しみと公務の愉しみを分けることくらいできる――そなたにはできなかったらしいがな、わたしの聞き及ぶところによれば」

***

“pleasures of the flesh”って、そこまで露骨に言いますか。


“Then what are you plans for the half-elf?”
“He will be mine, utterly and completely,”

「では、あのハーフ・エルフをどうするつもりなのだ?」
「かれはわたしのものになるのだ、余すところなく完全に」

“The only way to possess the half-elf is to make him watch as I destroy Laurana,”
“That is hardly the way to win his love,”

「かれをわがものにする唯一の方法は、わたしがローラナを破滅させるところを目の当たりに見せることだ」
「それではかれの愛を勝ち得るのは難しかろう」

“I don’t want his love,” Pulling off her gloves and unbuckling her armor, Kitiara laughed shortly. “I want him! As long as she lives, his thoughts will be of her and of the noble sacrifice he has made.”

「かれの愛など欲しくもない」手袋を脱ぎ、鎧をはずしながら、キティアラは短く笑った。「わたしが欲しいのはかれだ!ローラナがこの世にある限り、かれの念頭からは彼女のこと、彼女のために自分が捧げた尊い犠牲のことが離れないだろう」

“No, the only way he will be mine--totally--is to be ground beneath the heel of my boot until he is nothing more than a shapeless mass. Then, he will be of use to me.”

「違うのだよ、かれが――完全に――わがものになる唯一の方法は、わたしのブーツの踵に踏みにじられ、醜いただの固まりにすぎなくなったときだけなのだ。そのときこそ、かれはわたしにとって有用となるのだ」

“Not for long,”
“Death will flee him”

「それとて、長いことではあるまい」
「死がかれを解放しよう」
 
“He has lied to me,”
“He has lied. My brothers did not die in the Blood Sea--at least one of them leaved, I know.”

「かれはわたしに嘘をついている」
「かれは嘘をついている。わたしの弟たちは<鮮血海>で死んではいない――少なくとも、一人は生きているのがわかっている」

The spectral knight stood beside the dragonhelm that lay on the table amidst pieces of the broken vase. With a wave of his fleshless hand, Lord Soth caused the shattered remains of the vase to rise into the air and hover before him. Holding them by the force of his magic, the death knight turned to regard Kitiara with his flaming orange eyes as she stood naked before him. The firelight turned her tanned skin golden, made her dark hair shine with warmth.

 亡霊の騎士は小卓のそばに立ち、花瓶の残骸の真ん中にころがっている竜兜を見ていた。肉のない手を一振りして、ソス卿は花瓶の破片を自分の目の前の宙に浮かせた。魔術の力でそれを浮かせたまま、かれは橙色に燃える眼で、素肌で眼前に立っているキティアラを眺めた。炉の明かりが当たって、彼女の日に焼けた肌が金色に染まり、漆黒の髪が熱っぽく光って見える。

***

 竜兜、砕けた花瓶の破片、炎に照らし出される素肌のキティアラ…もはや生身の女を欲しないソス卿にしか、彼女の本質を見ることができないとは。


“You are a woman still, Kitiara.” Lord Soth said softly. ”You love…”

「そなたはやはり女だ、キティアラ」ソス卿はゆっくりと言った。「まだ愛しているのだ……」

“And you hurt,” he said softly to Kitiara as he drew near her. “Do not deceive yourself, Dark Lady. Crush him you as you will, the half-elf will always be your master--even in death.”

「そして傷ついたのだ」かれは低く言いながら彼女に近づいた。「自分を偽るものではない、<暗黒の女卿>よ。いくら押しつぶそうとも、あのハーフ・エルフは常にそなたの主なのだ――たとえ死してもな」

Lord Soth melded with the shadows of the room. Kitiara stood for long moments, staring into the blazing fire, seeking, perhaps, to read her fortune in the flames.

 ソス卿は室内の闇に溶け込んだ。キティアラは長い間立ちつくしたまま、燃えさかる火を見つめていた――まるで自分の運命を読み取ろうとするように。

***

 あああもうこのシーンのキティアラ様は痛々しくて仕方がないです。ソス卿が生身の男性だったら良かったのにとさえ思っちゃいますよ。タニスなんて放っといて。

 ここでタニスを罵り始めると、本文の長さを超える勢いになってしまうので我慢。中断してる二次創作に全てぶつけます。「戦記」が終わった段階で原文紹介はしばらくお休みして、二次創作を完成させて、それから「伝説」に入ろうと思ってます。

「書く書く詐欺」にならないように、ここで逃げ場を断っておきます。

『パヴァーヌ――ドラゴンランス舞曲』

 性別逆転ものです。流されるハーフ・エルフの乙女タニスちゃん、世間知らずの王子から黄金の将軍へと成長を遂げるローラナス、そしてドラゴン卿キタリオンの物語です。そして双子の姉妹、キャランちゃんとレイストちゃん。他のメインキャラの性別はそのままです。予定の八割ぐらいは書けてるんですが、書いていくうちにどんどん長くなるのは仕様なので、たぶんまだ完成品の半分くらいにしかなってないでしょう。

2015年1月26日月曜日

戦記6巻p114〜 債務

DRAGONS OF SPRING DAWNING p276

Kitiara’s eyes opened wide. Then, suddenly, she threw back her head and laughed. With a quick, easy move, she broke free of Tanis’s grip and, turning, walked over to refill her wine glass.

戦記6巻p114

 キティアラの顔が大きく見開かれた。が、不意に、彼女は頭をそらして声高く笑った。さっとタニスの手を振りほどくと、彼女は小卓へ向かい、再びワイン・グラスを満たした。

She grinned at him over her shoulder. “Why, Tanis,” she said, laughing again, “what are you to me that I should make this trade?”
Tanis felt his face flush.

 キティアラは肩越しにかれににやりと笑いかけた。「あきれたわね、タニス」言うと、彼女は再び高々と笑い、「自分にそんな価値があると思っているの?」
 タニスは自分の頬が燃え上がるのを感じた。

***

 なんでそこで赤面しますかタニスちゃん。言われるまでもないでしょうが。


“And you want me to exchange her for”--Kitiara gestured contemptuously--“a half-elf who’s been wandering the countryside in the company of kender, barbarians, and dwarves!”

「…それなのに、おまえはわたしに彼女を交換せよというのか」――と軽蔑たっぷりに指さして――「ケンダーや蛮族やドワーフにまじって辺鄙ないなかをさすらっていた、たかがハーフ・エルフと!」

Kitiara began to laugh again, laughing so hard she was forced to sit down and wipe tears from her eyes. “Really, Tanis, you have a high opinion of yourself. What did you think I’d take you back for? Love?”

 キティアラはまた大笑を始め、笑いすぎて、椅子にすわって涙を拭いた。「まったく、タニス、たいした自負だ。いったいなんのためにわたしがおまえを迎えなおすと思った?愛のためか?」

There was a subtle change in Kit’s voice, her laugh seemed forced. Frowning suddenly, she twisted the wineglass in her hand.
Tanis did not respond. He could only stand before her, his skin burning at her ridicule. Kitiara stared at him, then lowered her gaze.

 キットの声にかすかな変化があった。哄笑に無理がうかがえる。不意に眉を寄せると、彼女は手の中のワイン・グラスをひねった。
 タニスは答えなかった。彼女の前に立ちつくしたまま、嘲笑に肌をほてらせているばかりだった。キティアラはかれを見つめ、やがて視線を下げた。

“Suppose I said yes?” she asked in a cold voice, her eyes on the glass in her hand. “What could you give me in return for what I would lose?”

「もしわたしが承知したら?」彼女は手のグラスに眼を据えたまま、冷たい声で訊いた。「見返りにいったい何を提供してくれる?」

Tanis drew a deep breath. “The commander of your forces is dead,” he said, keeping his voice even.
“I’ll take place.”
“You’d serve under…in the dragonarmy?”

 タニスは深く息をついた。「君の部下の指揮官は死んだ」かれは口調を変えずに言った。
「おれはかれの代わりをつとめよう」
「加わるというのか……ドラゴン軍に?」

“I truly believe you would do this,” Kitiara said softly, marveling. For long moments she stared at him. “I’ll have to consider…”

「本気なのは信じよう」キティアラは感嘆するように低く言った。長いあいだじっとかれを見つめて、「考えてみねばな……」

Then, as if arguing with herself, she shook her head. Putting the glass to her lips, she swallowed the wine, set the glass down, and rose to her feet.

“But now I must leave you, Tanis. There is a meeting of the Dragon Highlords tonight.”

 しかしまるで自分自身と言い争うかのように、彼女はかぶりを振った。グラスを唇に運び、ワインを飲むと、彼女はグラスを置いて立ち上がった。

「だが、今はこれまでだ、タニス。今夜ドラゴン卿の会合がある」

“Ceremonial armor will be brought to you. Be dressed and ready to accompany me within the hour.” She started to go, then turned to face Tanis once more.

「典礼用の鎧を届けさせる。それを着けて、一時間以内に伺候の準備を整えておけ」彼女は行きかけて、もう一度タニスをふり返った。

“My decision may depend on how you conduct yourself this evening,”
“Remember, Half-Elven, from this moment you serve me!”

「わたしの決断は、今宵のおまえのふるまい如何による」
「忘れるな、ハーフ・エルフ、この瞬間からおまえはわたしに仕えるのだ!」

The brown eyes glittered clear and cold as they held Tanis in their thrall. Slowly he felt the will of this woman press upon him until it was like a strong hand forcing him down onto the polished marble floor.

 とび色の瞳が冷たく冴え冴えと輝いてタニスを捕えた。ゆっくりとかれは、この女の意思が重くのしかかってき、ついには力強い手のように、かれを磨かれた大理石の床にねじ伏せてゆくように感じた。

Suddenly Tanis felt the great distance between them. She was supremely, superbly human. For only the humans were endowed with the lust for power so strong that the raw passion of their nature could be easily corrupted.

 突然、タニスは二人を隔てる大きな距離を感じた。彼女はこの上なく見事に<人間>である。<人間>だけが力への飽くなき欲求を生まれながらに持っており、その欲求が昂じれば、幼稚な恋情などという感情はたやすく脇へ押しのけられてしまうのである。

The humans’ brief lives were as flames that could burn with a pure light like Goldmoon’s candle, like Sturm’s shattered sun. Or the flame could destroy, a searing fire that consumed all in its path.

<人間>の短い命は、穢れない光で燃える炎にもなりうる。ゴールドムーンのひとすじのろうそくや、スタームの砕けた太陽のように。しかしその炎は、前途にあるものすべてを滅ぼす灼熱の炎にもなりうる。

He had warmed his cold, sluggish elven blood by that fire; he had nurtured the flame in his heart. Now he saw himself as he would become--as he had seen the bodies of those who died in the flames of Tarsis--a mass of charred flesh, the heart black and still.

 かれは自分の冷たく緩慢なエルフの血をその炎で暖め、心の中にその炎を育んできた。今かれは自分の行く末をまのあたりにしていた――タルシスの業火で死んだ人々の遺体のように――黒焦げの肉の固まりのように――心臓は黒く停止して。

It was his due, the price he must pay.

She had suffered enough because of him.

 それはかれの債務、かれが払わねばならない代価だった。
 ローラナはかれのせいでじゅうぶん苦しんだのだ。

***

 ここが、どうしても納得がいきません。タニスとローラナとキティアラについての関連シーンを何度も読み返し、突き合わせて考えた結論です。

 タニスはローラナになんの債務も負っていません。クォリネスティで再会した時、タニスはきっぱりと「自分はキティアラを愛しているから、ローラナの気持ちには応えられない」と告げているではないですか。その後ローラナがやったこと、ローラナの身に起きたことは全て彼女自身の選択であり責任です。少なくとも、タニスに責任があるとする論拠は私は一片も見いだせませんでした。

 タニスが償うべき相手は目の前にいるではありませんか。騙し、利用し、裏切り傷つけておきながら、そのことを自覚すらしていないようですね。

 彼女が誰かを愛するはずがない。愛せるはずなどないのだ――

 だから自分は悪くない、とでも?
 なぜかつての恋人に対して、嘘をついて悪かったと詫びの言葉のひとつも出てこないのです?


Slowly, Tanis placed his hand over his heart and bowed.
“My lord,”

 ゆっくりと、タニスは左胸に手をあて、恭順のしるしに頭を垂れた。
「わが閣下」

***

 生ぬるい。そこは頭を垂れるどころではないでしょう。跪くか、這いつくばってブーツに口づけるくらいやってくださいよ、やらせてくださいよキティアラ様。

2015年1月25日日曜日

戦記6巻p111〜 "Wine?"

DRAGONS OF SPRING DAWNING p274

“Wine?”
“No.”
Kitiara shrugged. Taking the pitcher from the bowl of snow in which it rested to keep cool, she slowly poured some for herself, idly watching the blood-red liquid run out of the crystal carafe and into her glass. Then she carefully set the crystal carafe back into the snow and sat down opposite Tanis, regarding him coolly.

戦記6巻p111

「ワインでも?」
「いらない」
 キティアラは肩をすくめた。雪を詰めた冷やし鉢からワイン差しを取ると、彼女はゆっくりと自分に少量注ぎながら、血のように赤い液体が水晶のワイン差しからグラスに流れ落ちるのをのんびりと眺めていた。やがて注意深く水晶のワイン差しを雪の中に戻すと、彼女はタニスの向かい側に腰をおろし、冷ややかにかれを見つめた。

***

「血のように赤い液体」が鮮血海の水を連想させない筈がないですね、二人にとって。


She had taken off the dragon helm, but she wore her armor still, the night-blue armor, gilded with gold, that fit over her lithe body like scaled skin. The light from many candles in the room gleamed in the polished surfaces and glinted off the sharp metal edges until Kitiara seemed ablaze in flame. Her dark hair, damp with perspiration, curled around her face. Her brown eyes were bright as fire, shadowed by long, dark lashes.

 彼女は竜兜を脱いでいたが、鎧はまだ着けていた――黄金を飾った夜藍色の鎧で、しなやかな肢体に鱗のように密着している。室内のたくさんのろうそくが、鎧の磨き上げられた表面で光り、鋭い鱗の端に反射して、まるで、キティアラ自身が炎に包まれているようだった。汗で湿った黒髪が顔のまわりをくるくるとふちどる。とび色の瞳は火のように明るく、長く黒い睫毛が影を落としている。

“Why are you here, Tanis?” she asked softly, running her finger along the rim of her glass as she gazed steadily at him.
“You know why,”
“Laurana, of course,”

「なぜここにいる、タニス?」彼女は静かに問い、タニスにじっと眼を据えたままグラスの縁を指でなぞった。
「わかっているだろう」
「当然、ローラナだな」

Tanis shrugged, careful to keep his face a mask, yet fearing that this woman--who sometimes knew him better than he knew himself--could read every thought.

 タニスは肩をすくめ、注意深く無表情を保ったが、それでも彼女なら――時にはかれ自身よりもかれのことを熟知しているキティアラである――どんな考えも読まれてしまいそうな恐れがあった。

“You came alone?” Kitiara asked, sipping at the wine.
“Yes,” Tanis replied, returning her gaze without faltering.
Kitiara raised an eyebrow in obvious disbelief.

「一人できたのか?」キティアラはワインを一口含んだ。
「ああ」タニスは怯まずに彼女の眼を見返した。
 キティアラは全く信じていないように片眉を上げた。

“So Flint is dead.”
“Like Sturm,” Tanis could not help but add through clenched teeth.

「そうか、フリントは死んだのか」
「スタームにつづいてな」タニスは歯がみしながらつけ加えずにはいられなかった。

Kit glanced at him sharply. “The fortunes of war, my dear,”
“We were both soldiers, he and I. He understands. His spirit bears me no malice.”

 キットが鋭い目を向けた。「勝負は戦のならいというものだ、タニス」
「スタームも私も、どちらも軍人だ。スタームはちゃんと納得しているはず。かれの魂はわたしになんの悪意も抱いていない」

***

 軍人として語っている台詞であるにもかかわらず、呼びかけは”my dear”。このシーン、ドラゴン卿としての顔と、女としての顔の間で揺れ動くキティアラ様の表現のひとつひとつがたまりません。


Kitiara was silent as she watched Tanis’s face a few moments. Then she set the glass down with a clink.
“What about my brothers?” she asked. “Where--“
“Why don’t you just take me to the dungeons and interrogate me?” Tanis snarled. Rising out of his chair, he began to pace the luxurious room.

 キティアラは黙ったまま、しばらくタニスの顔を見つめていた。やがて彼女はことりとグラスを置いた。
「弟たちは?」彼女は訊いた。「どこへ――」
「なぜ、さっさとおれを牢獄へ入れて尋問しないんだ?」タニスは声を荒げた。椅子から立ち上がり、贅沢な室内を行きつ戻りつする。

Kitiara smiled, an introspective, thoughtful smile. “Yes,” she said,

 キティアラは微笑した。考えこむような自省的な微笑。「もっともだ」と同意する。

“I could interrogate you there. And you would talk, dear Tanis. You would tell me all I wanted to hear, and then you would beg to tell me more. Not only do we have those who are skilled in the art of torture, but they are passionately dedicated to their profession.”

「牢獄で尋問してもよかった。そうすれば、愛しいタニス、おまえはしゃべっただろう。わたしの知りたいことをすべてしゃべり、さらにそれ以上もしゃべらせてくれと懇願しただろう。ここには拷問の達人がいるだけではなく、かれらは自分たちの職に情熱をかけているからな」

Rising languorously, Kitiara walked over to stand in front of Tanis. Her wine glass in one hand, she placed her other hand on his chest and slowly ran her palm up over his shoulder.

 けだるげに立ち上がると、キティアラはタニスの正面にやってきた。ワイン・グラスを片手に、彼女はもう片手をタニスの胸に置き、ゆっくりとてのひらで肩までなであげた。

“But this is not an interrogation. Say, rather, it is a sister, concerned about her family. Where are my brothers?”

「だが、これは尋問ではない。いうならば、むしろ、姉が家族を案じているのだ。弟たちは、どこ?」

“I don’t know,” Tanis said. Catching her wrist firmly in his hand, he held her hand away from him. “They were both lost in the Blood Sea….”

「知らない」タニスは言った。彼女の手首をぐっとつかみ、肩から引きはがす。「二人とも<鮮血海>で行方不明になった……」

Kitiara stated at Tanis long moments. He still held her wrist in his hand. Unconsciously, under her penetrating gaze, his fingers closed around it.

 キティアラは長々とタニスを見つめた。タニスの手の中にはまだ彼女の手首がある。かれは、見つめられて無意識のうちにその手に力をこめた。

“You’re hurting me…” Kit whispered softly. “Why did you come, Tanis? To rescue Laurana…alone? Even you were never that foolish--“

「痛いわ……」キットがそっとささやいた。「なぜここにきたの、タニス?ローラナを救いに……たった一人で?あなたはそんな愚かではなかったはず――」

“No,” Tanis said, tightening his grasp on Kitiara’s arm. “I came to make a trade. Take me. Let her go.”

「うむ」タニスはキティアラの腕を握りしめた。「おれが来たのは取り引きをするためだ。おれを捕えろ、彼女は放せ」

***

 日本語だと、一人称などに男言葉と女言葉の違いがはっきり表われますが、それがない英語だと、キティアラ様とレイストリンって似てるのだなあ、と感じます。じわりじわりと相手に迫り、搦めとりねじ伏せる力。レイストの場合は相手を選びますが、キティアラ様の場合、大抵の男には通用してしまうからたちが悪いです、お姉様。

2015年1月24日土曜日

戦記6巻p97〜 スカイア

DRAGONS OF SPRING DAWNING p266

He was the danger. Without him Caramon and the others might still pull it off. Without him…

“Tell Caramon to keep up the act. No matter what I do, he must trust me! Everything depends on that. Understand?”

戦記6巻p97

(危険人物はおれなんだ)タニスは気づいた。(おれがいなければ、キャラモンたちはまだ敵を騙しおおせるかもしれない。おれさえいなければ……)

「キャラモンに芝居をつづけるよう言ってくれ。おれが何をしようと、必ずおれを信じてくれ、と!すべてがそれにかかっている。おれが何をしようとだ。わかったか?」

Hurling himself forward, aware of the guards behind him, aware also of Caramon’s astonished face, Tanis threw himself toward the regal figure riding the blue dragon.
“Kitiara!”

 背後に迫る警備兵を目にしたタニスは、キャラモンの驚いた顔をも目にとめながら、だっと駆けだし、青竜にまたがった堂々たる人物に向かって身を投げ出した。
「キティアラ!」

***

「たにす」と打ち込めば「タニスちゃん」、「きてぃ」だけで「キティアラ様」を提示してくる私のMacを誰かどうにかしてください(自業自得です)


The Highlord in the night-blue, dragon-scale armor turned upon hearing her name. Tanis could see her brown eyes widen in astonishment beneath the hideous dragonmask she wore. He could see the fiery eyes of the male blue dragon turn to gaze at him as well.

 夜藍色の竜鱗の鎧をつけたドラゴン卿は、自分の名前を呼ばれてふり返った。タニスには、彼女のとび色の瞳が、忌まわしい竜型面頬の下で驚きに見開かれるのが見えた。青い雄竜が、同じく炎のような眼でかれを睨みつける。

“Halt, Skie,” Kitiara said, placing a gloved hand commandingly on the dragon’s neck. Skie stopped obediently, his clawed feet slipping slightly on the cobblestones of the street. But the dragon’s eyes, as they glared at Tanis, were filled with jealously and hatred.

「止まれ、スカイア」キティアラは手袋をはめた手を騎竜の首に置いて命じた。スカイアはおとなしく従い、鉤爪の足が丸石敷きの街路でわずかに滑った。しかし、タニスを睨みつける竜の眼には、嫉妬と憎悪があふれていた。

***

 キティアラ様の関心(とそれ以上のもの)を得ているタニスへの、雄竜スカイアたんの嫉妬。おいしいですごちそうさまです。
 スカイアに限らず、フレア(夏の炎の竜、スティール)といい、レイザー(魂の戦争、メダン元帥)といい、青竜はみんな主のことが大好きですね。そんな彼らが愛しいです。


Stumbling to his feet, weak with relief, his head swimming from his struggles with the guards, Tanis made his way forward to stand beside her. As he drew nearer, he saw a flicker of amusement in Kitiara’s brown eyes. She was enjoying this; a new game with an old toy.

 タニスは安堵のあまり脱力し、警備兵とのもみあいでふらつく頭でよろよろと立ち上がると、彼女のかたわらに進み出た。近寄ってみると、キティアラのとび色の瞳にはおもしろがっているようなきらめきがあった。彼女はこの事態を楽しんでいるのだ。古いおもちゃでする新しい遊びのように。

His friends were safe now--at least safer than they were with him.

Turning away, he discovered Kitiara’s brown eyes regarding him with an odd mixture of cunning and undisguised admiration.

 ともかく友人たちはこれで安全になったのだ――少なくとも、かれと一緒にいるよりは。

 首を戻すと、キティアラのとび色の瞳が、狡猾さと、紛うことない賞賛の色を奇妙に混じりあわせてかれを見つめていた。

2015年1月23日金曜日

戦記6巻p72〜 赦免

DRAGONS OF SPRING DAWNING p252

But as he said the words, Tanis realized he was lying. He had seen, but he seen only what he wanted to see. How much of what happened in his life was like that? How much of what he saw was distorted by his own mind?

戦記6巻p72

 そう言いながらも、タニスは自分が嘘をついているのがわかった。ちゃんと見えていたくせに、自分が見たいようにしか見ていなかったのだ。いったいどれほど、眼で見たものを頭で歪めていたのだろう?

Berem had come to represent for Tanis those dark and secret things within himself he hated. He had killed Berem, the half-elf knew; but in reality, he had driven that sword through himself.

 ベレムといるとタニスは、自分の内部にある暗く秘めた厭わしいものをまざまざとつきつけられるような心地になっていた。現実にはかれはベレムを殺した。しかし実際には、かれは自分自身に剣を突き立てたのだった。

And now it was as if that sword wound had spewed out the foul, gangrenous poison corrupting his soul.

 そして今、かれの魂を蝕み、どろどろと腐敗させていた毒が、その剣の傷口からすっかり噴きでてしまったような気持ちがした。

***

 毒というよりも、悪い血を流し出すことで病気を治すと信じられていた中世の療法、瀉血をイメージしました。


The grief and sorrow of Flint’s death was like a soothing balm poured inside, reminding him of goodness, of higher values. Tanis felt himself freed at last of the dark shadows of his guilt.

 フリントの死の悲嘆が鎮めの膏油のようにタニスの内に注ぎ込み、より価値あるものを、善を思い出させた。タニスは、ついに自分が暗い罪の意識から解放されるのを感じた。

Whatever happened, he had done his best to try and help, to try and make things right. He had made mistakes, but he could forgive himself now and go on.

 何が起ころうが、かれはものごとを正そうとし、そのために全力をつくして努めてきたのだ。誤りは犯したが、今ではタニスはそれを許して前進することができた。

Turning, he looked back once more upon the barren place. Darkness was falling swiftly, the azure blue sky deepening to purple and finally to black. The strange boulders were shrouded in the gathering gloom. He could no longer see the dark pool of rock where Fizban had vanished.

 かれはふり返って、もう一度不毛の地を眺めた。宵闇が速やかに降り、紺碧の空は紫に、そしてついには黒へと色を変える。不思議な巨石群は深まる闇に包みこまれた。もはや、フィズバンが姿を消した暗い岩の淵は見えない。

For a moment Tanis struggled with himself, holding onto his friend as long as he could. Then, silently, he let Flint go. Turning, he crept through the narrow cleft I  the rocks, leaving Godshome, never to see again.

 一瞬、タニスは自分自身とあらがって、ひしと旧友の思い出にしがみついた。が、やがて静かにタニスはフリントを逝かせてやった。背を向けて、かれは狭い岩の亀裂ににじり入り、二度と見ることのない<神宿り>をあとにした。

***

 次からいよいよネラーカ入りです。紹介したいシーンだらけで困ってます。

2015年1月22日木曜日

戦記6巻p64〜 旅立ち

DRAGONS OF SPRING DAWNING p248

“No, Flint! You can’t go off adventuring without me!”

“It’ll be the first moment of peace I’ve had since we met,”

戦記6巻p64

「いやだよ、フリント!ぼくを連れずに冒険に出かけちゃうなんて駄目だよ!」

「わしは、おまえさんと出会ってから初めて、ようやく平和なときを過ごせるんじゃ」

“I hate to leave you”--his rapidly dimming vision focused on Tanis--“just when you need me. But I’ve taught you all I know, lad. Everything will be fine. I know…fine…”

「おまえさんを置いてゆくのは辛いが」――フリントは急速に薄れてゆく視野をタニスに向けた――「特に、おまえさんがわしを必要としているときに。だが、わしの知っていることはすべて教えたはずじゃ。おまえさんはもう立派な若者だ。何もかもうまくおさまるじゃろう……うまく……」

“I know you, now,”
“You’ll come with me, won’t you? At least at the beginning of a journey…so I won’t be alone? I’ve walked with friends so long, I feel…kind of funny…going off like this…by myself.”

「ようやく、あなたが何者なのかわかった」
「あなたはわしに付き添ってくれるのでしょう?少なくとも、旅立ちのときには……だから、わしはひとりぼっちではないのでしょう?わしはあんまり長いあいだ仲間と一緒に歩いてきたもんだから、こんなふうに……一人だけでも出かけるのは……どうも妙な感じで……」

“I’ll come with you,” Fizban promised gently. “Close your eyes and rest now, Flint. The troubles of this world are yours no longer. You have earned the right to sleep.”

「一緒に行ってやるとも」フィズバンは優しく約束した。「眼を閉じてもう休むがよい、フリント。この世の苦難はもはやそなたのものではない。そなたは眠る権利を得たのだ」

“Sleep,” the dwarf said, smiling. “Yes, that’s what I need. Wake me when you’re ready…wake me when it’s time to leave…”

「眠り……」フリントはにっこり言った。「そうだ、眠りこそわしに必要なものだ。準備ができたら起こしてくだされ……出発する時間になったら起こして――」

“I promised him he would not travel alone,”

Then he stopped within the circle. Before him spread what he first took to be a pool of water, so still that nothing marred its smooth surface.

It stretched before Tanis with the darkness of night and, indeed, looking down into its black depths, Tanis was startled to see stars!

「わしはこの男に、一人きりでは旅立たせんと約束したのだ」

 輪の中に入って、かれは立ちどまった。眼前に広がっているものを、かれは最初水を湛えた池だと思った。それほど、その表面は完璧に平らだったのだ。

 岩はタニスの前に夜の暗さを持って広がり、そして実際、その黒い淵を覗きこむと、驚いたことに星が見えた!

He saw the stars, he saw the moons, he saw three moons, and his soul trembled, for the black moon visible only to those powerful mages of the Black Robes was now visible to him, like a dark circle cut out of blackness.

 星が見える。月が見える。月が三つ見える。タニスの心臓はおののいた。<黒いローブ>の、しかも強力な魔法使いにしか見えないという黒い月が見えるのだ――暗黒から切り抜いた黒い円盤のように。

He could even see the gaping holes where the constellations of the Queen of Darkness and the Valiant Warrior had once wheeled in the sky.
Tanis recalled Raistlin’s words, “Both gone. She has come to Krynn, Tanis, and he has come to fight her….”

 さらに、かつて天を巡っていた<暗黒の女王>と<雄々しき戦士>の二つの星座の空洞までが見えた。
 タニスはレイストリンの言葉を思い出した。『二つとも失せてしまった。女王はクリンに降りてきたのです、タニス、そして戦士も女王と戦うために……』

“Fizban!” Tanis called.

The old man reached the center of the rock pool…and then disappeared.

“Look, Tanis!” he whispered, his voice quivering. “The constellation! It’s come back!”

「フィズバン!」

 老魔術師は岩の淵の中央に着き……そしてその場で消えてしまった。

「見て、タニス!」ささやき声が震えている。「星座が!星座が戻ってる!」

As Tanis stared into the surface of the black pool, he saw the stars of the constellation of the Valiant Warrior return. They flickered, then burst into light, filling the dark pool with their blue-white radiance. Swiftly Tanis looked upward--but the sky was dark and still and empty.

 タニスが黒い淵の表面を覗きこむと、<雄々しき戦士>の星座の星々が戻ったのが見えた。星々はちらちらと瞬くと、やにわにまばゆい光となって、暗い淵を青白い輝きで満たした。タニスはすばやく天を仰いだ――しかし、頭上の空は暗く静止したまま、虚無をつづけていた。

2015年1月21日水曜日

戦記6巻p60〜 ドワーフ

DRAGONS OF SPRING DAWNING p245

“It’s Berem!”
“And he’s doing something to Flint! Hurry, Tanis!”

His eyes were on the two in front of him and now he could see them clearly. Even as he watched, he saw the dwarf fall to the ground. Berem stood over him.

戦記6巻p60

「ベレムだ!」
「フリントに何かしてる!タニス、急いで!」

 二人の姿は今でははっきりとわかる。そして、かれの見ている前で、フリントが地面に倒れた。ベレムがかぶさるように立っている。

“What have you done?”
“You’ve killed him!” Grief, guilt, despair, and rage exploded within Tanis like one of the old mage’s fireballs, flooding his head with unbearable pain. He could not see, a red tide blurred his sight.

「いったいなにをした?」
「この人殺しめ!」悲嘆と自責、絶望と怒りが、タニスの内部でまるで老魔術師の<火の球>のように炸裂し、耐えがたい痛みで脳裏を満たした。かれはもはや眼が見えず、真っ赤な潮が視野を滲ませていた。

His touch was like cool water to a fevered man. Tanis felt reason return. The bloody haze cleared from his vision. He dropped the blood-stained sword from his red hands and collapsed, sobbing, at Fizban’s feet.

 その手は、熱病にかかったものへの一服の清涼剤のようだった。タニスは理性が戻るのを感じた。視野にかかっていた鮮紅色のもやが晴れた。かれは血まみれの剣を赤く染まった両手から取り落とし、すすり泣きながらフィズバンの足下にくずおれた。

“Be strong, Tanis,” he said softly, “for you must say good-bye to one who has a long journey before him.”

「しっかりおし、タニス」老人はそっと言った。「長い旅を控えているひとにお訣れを言わねばな」

“Then he didn’t--he didn’t--harm you…”

“Harm me! He couldn’t harm a mouse, Tanis. He’s as gentle as Tika.”

“You take care of that big oaf, Caramon, you hear?”
“See he comes in out of the rain.”

「では、ベレムは――ベレムは――あんたを傷つけたのではないのか……」

「わしを傷つける、じゃと?あいつはネズミ一匹傷つけられんさ、タニス。かれはティカと同じくらい優しいやつじゃ」

「おまえさんはあのでっかい鈍牛――キャラモンの面倒をみてやってくれ、いいな?」
「あいつが雨に打たれんようにな」

“At least you won’t be trying to drown me anymore,” the dwarf grumbled, his eyes resting fondly on Caramon. “And if you see that brother of yours, give him a kick in the robes for me.”

「少なくとも、わしを溺れさせようとしてももう無理だぞ」<老ドワーフ>はぶつぶつと言いながら、愛しそうにキャラモンを眺めた。「それから、もしあの弟に会ったら、わしの代わりにあの子のローブに一蹴りくらわしてやってくれ」

***

 先日「時の瞳もつ魔術師の竜」を読み終えたばかりなんですが、このときレイストリンが姿を隠してここにいて、フリントの苦痛を和らげる薬を飲ませ、最期まで看取っていた、というエピソードにはじわりと来ました。一方で、パランサスで二人が会っていた、という話はしっくり来ませんでした。もし会っていたとするなら、「もしあの弟に会ったら」という言葉の重みが違ってきてしまうと思うのです。

「わしの代わりにあの子のローブに一蹴りくらわしてやってくれ」

 嫌い抜いてる相手のことを「あの子」なんて言いませんよね。「ローブに一蹴り」って愛情表現ですよね。かれのことだって、幼い頃から見守ってきたんですから。

2015年1月20日火曜日

戦記6巻p48〜 神宿り

DRAGONS OF SPRING DAWNING p238

“Did the gods really live in this place we’re going to?”
“How should I know?” Fizban demanded irritably. ”Do I look like a god?”

戦記6巻p48

「ぼくらが行くところには本当に神々が住んでるの?」
「どうしてわしにわかる?」フィズバンはいらいらと問い返した。「わしが神様みたいに見えるか?」

Occupied in studying the kender’s map as he walked, Tanis did not see Flint collapse. He did not hear the odd note in the dwarf’ s voice, or see the spasm of pain that briefly contracted the dwarf’s face.

 タニスは<ケンダー>の地図に気を取られながら歩いていたので、フリントがくずおれるのが目に入らなかった。異様な声の調子にも、痛みの発作にぴくりとひきつったその顔にも、気づかなかった。

We don’t want to leave you behind.
“Aye, lad,” Flint repeated to himself. Brushing his gnarled hand quickly across his eyes, the dwarf stood up and followed his friends.

『あんたを置き去りにしたくない』
「わかっとるよ、ぼうず」フリントはひとり繰り返した。節くれだった手ですばやく眼をぬぐうと、<老ドワーフ>は立ち上がり、友人たちのあとを追った。

“Don’t worry, lad,” Flint said gruffly, patting the half-elf on the arm. “We’ll find him.”
“I’m sorry, Tanis,” Caramon mumbled. “I was thinking about--about Raist. I--I know I shouldn’t--“

「心配するな、ぼうず」フリントが武骨な手でタニスの腕を優しく叩いた。「ベレムはきっと見つけてやる」
「すまん、タニス」キャラモンがもごもごと謝る。「おれは――おれは、レイストのことを考えてたんだ。い、いけないことだとは、わかっていたんだが――」

“How in the name of the Abyss does that blasted brother of yours work mischief when he’s not even here!”

“I’m sorry, Caramon,”
“Don’t blame yourself.”

「あの罰あたりの弟め、奈落の名において、ここにいもしないくせにどうやって災難をひきおこしてくれるんだ!」

「すまない、キャラモン」
「自分を責めなくていい」

***

 あのー、ちょっとお聞きしていいでしょうか?罰あたりってどういうこと?船が鮮血海に沈んだのって、そもそも誰のせい?一人で逃げたのってそんなに悪いこと?一人でだってあれだけ体力消耗してたんですから、誰か連れて行こうとしたら間違いなく失敗して死んでたはずですよ。結局一行はみんな助かったんだから、もういいじゃないですか。
 キャラモンが不注意でベレムを見失ったのもレイストのせいで、キャラモンは悪くない?それってもはやストーカーの理屈ですよ。
「おれがおまえのことしか考えられなくなったのはおまえのせいだ」
 もうつきあってられません。明らかにこの頃のタニスはおかしいです。…正気に戻るためには、あんな悲しみと慰めが必要でした。


“This is it!” Fizban stated. “We’re here.”

“Not exactly the place I’d choose to live if I were a god.”

「ここじゃ!」フィズバンが宣言した。「着いたぞ」

「もしぼくが神様だったら、ここにはあんまり住みたくないなあ」

“It makes me feel so terribly sad,”
“I’m not frightened--it doesn’t seem evil, just so sorrowful! If the gods do come here, it must be to weep over the troubles of the world.”

「なんだかとっても淋しいところね」
「怖くはないの――邪悪な感じはしないけど、ただあんまり悲しそうで!もし神々が本当にここにこられるのなら、それは世界の中の不幸の数々に涙をおこぼしになるために違いないわ」

Fizban turned to regard Tika with a penetrating look and seemed about to speak, but before he could comment, Tasslehoff shouted.

 フィズバンがふり返ってティカをまじまじと見つめ、そして何か言いたそうにしたが、言葉が出る前にタッスルホッフが叫んだ。

2015年1月19日月曜日

戦記6巻p23〜 愚者の黄金

DRAGONS OF SPRING DAWNING p225

“Fizban!” cried Tasslehoff, throwing his arms around the old man.

“It’s Tassle--Tassle--“

戦記6巻p23

「フィズバン!」タッスルホッフが叫んで老人にひしと抱きついた。

「これはタッスル――タッスルなんとかじゃ――」

“And Tika…and that’s Caramon up there…oh, well, you can’t see him now. The there’s Berem. We picked him up in Kalaman and, oh--Fizban!--he’s got a green jewel gem--ugh, ouch, Tanis, that hurt!”

「それからティカと……あの上にいるのがキャラモンで……おっと、キャラモンはここからじゃ見えなくなってるね。それからベレムもいるんだよ。ベレムってカラマンで出会った人でね――それがさ、フィズバン!かれにはなんと胸に緑宝石が――あ、痛い、タニス、ひどいじゃないか!」

***

 癒し系地雷、タッスルホッフ・バーフット。


“You’re--uh--not with the--er--uh--dragonarmies?”

“No,” said Tanis grimly, “we’re not! Or at least we weren’t.” He gestured behind them. “That’s likely to change any moment now, though.”

「あんたたちは――そのう――ドラゴン軍に囲われているのではないんだな?」

「そうです」タニスはむっつりと答えた。「ドラゴン軍に囲われているわけではないんだ!いや、少なくとも、なかったんだ」かれは背後を指さした。「今にもすっかり囲まれてしまいそうですけどね」

 “Not with the dragonarmies at all?” Fizban pursued hopefully. “You’ve sure you haven’t converted? Been tortured? Brainwashed?”
“No, damn it!”

「一度もドラゴン軍には加わっとらんか?」フィズバンが声を明るくして確認する。「寝返っておらんのは確かか?拷問はされたか?洗脳は?」
「いいえ、全然!」

“My, my. Those fellows seem to be gaining. Mustn’t be caught by them. Well, what are we doing standing around?” he glared at Tanis. “Some leader you are! I suppose I’ll have to take change….Where’s my hat?”

「おやおや。あの連中が迫ってきとるようじゃぞ。つかまってはなるまい。さあ、こんなところで立ち話をしとっていいのか?」かれはタニスを睨みつけた。「みんなの指揮をとるのは、おまえさんじゃろうに。どうやらわしが代わったほうがよいかも……わしの帽子はどこかね?」

“About five miles back,” stated Pyrite with a great yawn.

“I’ve got to go with these folks,”
“You can’t go back on your own. You’ll just have to sallyforth--“
“The word is ‘Polymorph!’”

「十キロほど前ですよ」パイライトが大あくびとともに告げる。

「わしはこの連中と一緒に行かねばならん」
「おまえさんは一人では帰れんから、ちょいと突撃(サリフォース)して――」
「それを言うなら“変身”(ポリモーフ)でしょう!」

While Tas watched, fascinated, and Tanis fumed in impatience, the dragon spoke a few words in the strange language of magic.

 タッスルがわくわくと見守るなか、そしてタニスがいらいらと息巻くなか、金竜は不思議な魔法の呪文を口にした。

In the palm of Tas’s hand gleamed a tiny golden figure of a dragon, carved in exquisite detail. Tas imagined he could even see the scars on the wings. Rwo small red jewels winked out as golden eyelids closed over them.

 タッスルの掌にあるのは、細部まで精巧に彫られた小さな金竜の像だった。その翼には傷跡まで見つけられそうである。小さな紅玉がふたつ眼窩で輝き、そして――タッスルが見つめていると――金竜がウィンクをしてその宝石がちかりと輝いた。

“At least until this adventure’s ended.”
“Or it ends us,”

「少なくとも、この冒険がおしまいになるまではな」
「それとも、この冒険がおれたちの命をおしまいにするまで、かもな」

***

 深刻なシーンでの、一語一語に込められた想い。
 輝かしいシーンでの、普段目にすることのない格式高い言葉。
 そして、こういうコメディシーンでの言葉遊び。
 それぞれ味わい深いです。

2015年1月18日日曜日

戦記5巻p379〜 祝福

DRAGONS OF SPRING DAWNING p211

“I have a suggestion, my lord,”
“You have a person here, well-qualifies to take over the defense of this city--“

“You, Half-Elf?” interrupted Gilthanas with a bitter smile.
“No,”
“You, Gilthanas.”

戦記5巻 p379

「わたしに提案があります、御前」
「この都の防衛を委ねるにふさわしい適任者が、ここにおります――」
「おまえか、ハーフ・エルフ?」ギルサナスが辛辣な笑みを浮かべて遮った。
「いや」「君だ、ギルサナス」

“You’re going to Neraka, aren’t you?”
 Tanis nodded, wordlessly.

「ネラーカに行くつもりなんだろう?」
 タニスは無言のままうなずいた。

“I must leave,”

“Wait.”
“I--I want to tell you I’m sorry…”

「もう行かなくては」

「待て」
「ぼく――ぼくは謝りたいんだ……」

“Theros Ironfeld said once that--in all the years he had lived--he had never seen anything done out of love come to evil.”

「テロス・アイアンフェルドが以前言っていた――かれの長い人生のあいだで、愛の心からなされたことが邪悪な結果を生むのは見たことがない、と」

“We have to believe that, Tanis. What Laurana did, she did out of love. What you do now, you do out of love. Surely the gods will bless that.”

「ぼくらはそれを信じなければ、タニス。ローラナの行動は、愛からしたことだ。今おまえが取る行動も、愛からすることだ。きっと神々が祝福してくださるだろう」

“Did they bless Sturm?” Tanis asked harshly. “He loved!”
“Didn’t they? How do you know?”

「神々はスタームを祝福なさったか?」タニスは険しく訊いた。「かれは愛していたのに!」
「では、祝福なさらなかったか?どうしておまえにわかる?」

He wanted to believe. It sounded wonderful, beautiful…just like tales of dragons. As a child, he’d wanted to believe in dragons, too….

 かれは信じたかった。すばらしい、美しい台詞だった……ちょうどドラゴンの物語のように。子供の頃、かれはドラゴンの存在も信じたがっていたのだ……。

Sighing, he walked away from the elflord. His hand was on the doorknob when Gilthanas spoke again.
“Farewell…brother.”

 嘆息すると、かれはエルフの若君の前から歩み去った。かれの手が扉の握りにかかったとき、ギルサナスがもう一度声をかけた。
「つつがない旅を……弟よ」

***

 ギルサナスのタニスに対する呼称。2巻、パックス・タルカスへの途上、一度だけ「タニス」と呼んでいます。”I swear to you, Tanis,”と。しかしすぐに「タンサラス、おまえたちの命など、こうだ」に戻っています。このとき私は、「ギルサナスは『タニス』という呼び名が、かれを信頼する人たちが使う言葉だと肌で感じているだろう」とコメントしています。
 しかし今巻、立ち聞きしたキティアラの、タニスに関する会話をローラナに告げるシーンでも「タニス」と語っています。かれもローラナ同様、キティアラの言葉を額面通りに受け取っている、タニスはドラゴン軍に与しキティアラの許にいると信じているにも関わらずです。
 シルヴァラへの愛はかれをそこまで変えたのでしょうか。

 あとですね、一行が再会して、フリントとタッスルが交互にこれまであったことを語っていますが、タニスたちの方がこれまでの経緯を語ったって描写はないですね。何をどこまで語ったんですか、タニスちゃん。場合によってはやっぱりお義兄様が黙っていませんわよ。

 さて5巻は今回で完了です。なんと「聖域の銀竜の書」で13回、「深淵の海竜の書」で12回、合わせて25回と、1巻の24回を上回ってしまいました。どこまで行くのか6巻!そして伝説、セカンド、サマフレ、ソウルズまで本当にやるのか自分?!何年かかるんでしょうね(笑)

2015年1月17日土曜日

戦記5巻p369〜 最後通牒

DRAGONS OF SPRING DAWNING p205

“He is a hero in Solamnia now,”

戦記5巻p369

「あいつは、今ではソラムニアの英雄となったのじゃ」

“Start placing blame and you will end cursing the gods,”
“Thus do my people say.”

「『責任さがしは有害無益、天の配剤疑うなかれ』」
「おれの部族ではそう言う」

“Then I hold you responsible for whatever happens to Laurana,”
“And I will pray to the gods nightly that whatever cruel fate befalls her, you will meet the same thing--only a hundred times worse!”

“Don’t you think I’d accept that if would bring her back.”

「では、ローラナの身に起こることは、みなおまえの責任だからな」
「そして、ぼくは毎夜、神々に祈ってやる。妹の身にふりかかるやもしれぬ運命がどんなに残酷であろうと、必ずおまえも同じ目に遭いますように、と――しかも百倍もひどく!」

「それで彼女が戻ってくるものなら、喜んでこの身に引き受けてやるとも!」

The blue dragon circled lazily above the city in slow spirals, then landed leisurely within bow-shot of the city walls. A deathly hush fell upon the city as the dragon’s rider stood up in the stirrups. Removing her helm, the Dark Lady began to speak, her voice ringing through the clear air.

 青竜は大胆に都の上でゆるい螺旋を描くと、市壁から矢の届く距離に悠然と着陸した。死のような静寂が都を浸すなか、竜の乗手が鐙の上で立ち上がった。兜を取って、<暗黒の女卿>が口を開く。彼女の声は、澄んだ大気を通って高らかに響き渡った。

“The elfmaid, Lauralanthalasa, has been taken to the Queen of Darkness at Neraka. She will remain as hostage with the Queen until the following conditions are met.”

「エルフ乙女ローラランサラーサは、ネラーカの<暗黒の女王>のもとへ連行された。彼女は以下の条件が満たされるまで、<女王>のもとに人質として留め置かれる」

“This is madness!” Gilthanas called out in answer, stepping forward to the edge of the wall and staring down at the Dark Lady.

「正気の沙汰ではない!」ギルサナスが城壁の端に進み出て<暗黒の女卿>を見おろしながら、返答を叫んだ。

“The Queen is not unreasonable,” Kitiara replied smoothly. “Her Dark Majesty has foreseen that these demands will need time to be acted upon. You have three weeks.”

「<女王>は不可能な要求などなさらぬ」キティアラはなめらかに答えた。「陛下は、これらの要求が満たされるには時間が必要であることを予見されている。三週間の猶予を与えよう」

“If, within that time, you have not found the man Berem, whom we believe to be in the area around Flotsom, and if you have not sent away the good dragons, I will return and, this time, you will find more than a lock of your general’s hair before the gates of Kalaman.”

「もしその期間内に、かの男、フロットサム近辺にいるはずのベレムなる男を見つけられぬ場合、そして、善竜どもを移送できておらぬ場合、そなたらがカラマンの城門の前に見るものは、“将軍どの”の髪房だけではすむまいぞ」

Kitiara paused.
“You will find her head.”
With that, she tossed the helm down onto the ground at her dragon’s feet, then, at a word, Skie lifted his wings and rose into the air.

 キティアラは一呼吸おいた。
「首そのものを置いてやろう」
 その言葉とともに、彼女は銀の兜を騎竜の足下の地面に放った。号令一下、スカイアは翼を上げ、彼女もろとも空へ翔け去った。

***

 ああどこまでも余裕なキティアラ様。しかし実際のところ、どこでベレムが見つかると思っていたのでしょう?死んでも死んでも生き返る以上、いずれは周辺の浜に打ち上げられると踏んでいたんでしょうか。


“Three weeks,” Tanis said clearly, and his friends turned to him.

「三週間」タニスのはっきりとした言葉に、仲間たちがかれをふり返った。

Tasslehoff’s small hand slipped into his.
“Besides,” said the kender cheerfully, “think how much trouble you’d get into without me!”

 タッスルホッフの小さな手が、かれの手の中に滑りこんできた。
「それにさ」と<ケンダー>は陽気に言った、「考えてもごらんよ、ぼくがいなかったらどれだけ厄介な目に遭うことか!」

***

 このブログで取り上げたタッスルの初台詞が”Besides,”でした。どんな暗い時にも、どこまでも陽気なかれに、みんなどれだけ救われていたでしょうね。

2015年1月16日金曜日

戦記5巻p354〜 物語

DRAGONS OF SPRING DAWNING p196

Tanis sighed again. More problems. If the ancient gods had returned, what were they trying to do to them? See how heavy the burden could get before they collapsed beneath it? Did they find this amusing?

戦記5巻p354

 タニスは再び嘆息した。また新たな問題か。いにしえの神々が本当に帰還されたというなら、いったい何をなさっているのか?われわれがどれほどの重荷に耐えられるか、限界まで試しておられるのではあるまいか?これをおもしろがってでもおられるのか?

Why not just give up? Why not just stay down here? Why bother searching for a way out? Stay down here and forget everything. Forget the dragons…forget Raistlin…forget Laurana…Kitiara….

 なぜおれたちはあっさり諦めないんだ?なぜあっさりここに留まらないんだ?なぜわざわざ脱出の道を探す?ここに留まって、すべてを忘れてしまえばいい。忘れるんだ、ドラゴンのことも……レイストリンのことも……ローラナのことも……キティアラ……。

They were all standing around him now. Waiting for him to tell  them what to do.

Still they watched him, with no dimming of the faith and trust in their eyes.

 みんながかれを取り巻いていた。何をすべきか、タニスが指示を出すのを待っていた。

 それでも一行は、かれへの信頼や忠実さの少しも衰えない瞳で見つめつづけた。

“Quit looking at me to lead you! I betrayed you! Don’t you realize that! It’s my fault. Everything’s my fault! Find someone else--“

「おれに指示を求めないでくれ!おれは君たちを裏切った身だぞ。それがわかっていないのか!おれが悪いんだぞ、みんなおれの責任なんだ!誰かほかの人に――」

“Shall I tell you a story, Half-Elf?”

「ひとつお話をしていいかしら、タニス?」

***

 きちんと確認していませんが、原文、ゴールドムーンがタニスを”Half-Elf”と呼ぶのはこれが唯一か、あっても珍しいことだったと思います。続く物語に登場するのが”Tanis”ではなく、無名の”One Man”であることの前振りなのでしょうか。


“A story of a woman and man, lost and alone and frightened. Bearing a great burden, they came to an inn. The woman sang a song, a blue crystal staff performed a miracle, a mob attacked them.”

「ある男女のお話です。二人は道に迷い、孤独で、怖い思いをしていました。そして、非常な重荷を携えて、ある宿屋へやってきました。女は歌を歌い、青い水晶の杖が奇跡を行い、暴徒が二人に襲いかかってきました」

“One man stood up. One man took charge. One man--a stranger--said, ‘We’ll go out through the kitchen.’”
“Do you remember, Tanis?”

「そのとき、ある人が立ち上がりました。ある人がかばってくれました。ある人が――それも、見ず知らずの人が――言ってくれました。『台所から逃げよう』」
「憶えてらっしゃいますか、タニス?」

“I remember,”

「憶えています」

“We’re waiting, Tanis,” she said simply.

Riverwind’s stern face was relaxed.

Caramon hesitated a moment, then--striding forward--embraced Tanis in one of his bearlike hugs.

「わたくしたちはあなたについていきます、タニス」彼女は言葉を飾ることなく言った。

 リヴァーウィンドのいかめしい顔がほころんでいる。

 キャラモンは一瞬躊躇したが、やがて――大きく踏み出すと――昔のように、熊並みの力でタニスを抱きしめた。

“Take us to Kalaman,”
“It’s where we were headed anyway.”

「カラマンへ連れて行ってください」
「いずれにせよ、そこがおれたちの目的地だったんだ」

2015年1月15日木曜日

戦記5巻p345〜 影絵

DRAGONS OF SPRING DAWNING p190

They don’t understand. They don’t need me. Even Tika doesn’t need me, not like Raist needed me.

戦記5巻p345

 だが、かれらにはわかっていないのだ。かれらはおれを必要としていない。ティカでさえおれが必要ではない――レイストがおれを必要としたようには。

They never heard him wake screaming in the night when he was little. We were left alone so much, he and I. There was no one there in the darkness to hear him and comfort him but me.

 かれらは、あいつが子供のころ夜中に悲鳴を上げて飛び起きるのを聞いたことがないんだ。おれたちはいつだってふたりきりだった。おれとあいつと。暗闇の中であいつの悲鳴を聞きつけてなだめてやるのは、おれしかいなかった。

He could never remember those dreams, but they were awful. His thin body shook with fear. His eyes were wild with the sight of terrors only he could see.

 あいつは悪夢の内容は一度も思い出せなかったが、それでも凄まじい夢に間違いなかった。あいつの華奢なからだは恐怖で震えていた。ほかの者には見えない悪鬼を映した眼は、半狂乱で血走っていた。

He clutched at me, sobbing. And I’d tell him stories or make funny shadow-pictures on the wall to drive away the horror.

 あいつはおれにしがみついてすすり泣いた。そんなとき、おれは恐怖を忘れさせるために、お話を聞かせたり、壁に滑稽な影絵を映してやったりしたものだ。

“Look, Raist,” I’d say, “bunnies…” and I’d hold up two fingers and wiggle them like a rabbit’s ears.

「ごらん、レイスト」とおれは言ったものだ。「うさ公だよ……」そうして、指を二本立てて、うさぎの耳のようにぴくつかせる。

After a while, he’d stop trembling. He wouldn’t smile or laugh. He never did either, much, even when he was little. But he would relax.

 しばらくすると、あいつの震えはとまる。にっこりしたり、声をあげて笑ったりはしない。あいつは小さい頃でさえ、どちらもあまりしなかった。それでも、あいつの緊張は和らいだものだ。

“I must sleep. I am so tired,” he’d whisper, holding my hand fast. “But you stay awake, Caramon. Guard my sleep. Keep them away. Don’t let them get me.”

「ぼくは眠らなくっちゃ。とっても疲れてるんだ」あいつはおれの手をぎゅっと握りながらささやく。「でも、キャラモンは起きていてくれる?ぼくの夢を守っていてよ。悪い夢が近づかないように。悪い夢にぼくをつかまえさせないでね」

“I’ll stay awake. I won’t let anything hurt you, Raist!” I’d promise.

「起きていてやるとも。どんなものにもおまえを傷つけさせたりするものか、レイスト!」おれは約束したものだ。

Then he would smile--almost--and, exhausted, his eyes would close. I kept my promise. I would stay awake while he slept.

 そうすると、あいつはほほえんで――ほほえみらしきものを浮かべて――そして、ぐったりと疲れきり、瞼を閉ざすのだ。おれは約束を守った。おれはあいつが眠っている間、ずっと起きていた。

And it was funny. Maybe I did keep them away, because as long as I was awake and watching, the nightmares never came to him.

 そして、おかしなことだが、本当におれが悪夢を追い払っていたらしい。というのも、おれが起きて見張っているかぎり、悪夢は決してあいつのもとにやってこなかったからだ。

Even when he was older, sometimes he’d still cry out in the night and reach out to me. And I’d be there. But what will he do now? What will he do without me when he’s alone, lost, and frightened in the darkness?

 あいつはもっと大きくなってからでも、時々、夜中に悲鳴をあげて、おれを手探りした。そして、おれは必ずそこにいた。だが、これからあいつはどうするのだろう?おれなしでどうするのだろう、独りぼっちで、途方に暮れて、闇に怯えたときには?

What will I do without him?

 そして、おれは、あいつなしでどうするのだろう?

***

“Look, Raist,”
“bunnies…”

 ここでは「ごらん、レイスト」「うさ公だよ……」
 伝説6巻では「ほうら、レイスト、ウサちゃんだよ……」
 些細なことですね。でも気になって、邦訳原書共々該当シーンを読み比べていて、ふと思いました。

 レイストリンの見ていた、内容を思い出せない悪夢とは何だったのでしょう?

 そして伝説6巻。何がレイストリンを<暗黒の女王>の責め苦から守ったのでしょう?

「受け継ぎし者」でキャラモンは、レイストリンの自己犠牲がパラダインの御心に適ったからだと語っています。しかし。しかしですよ。そうだとしたらこの影絵の意味するところは何なのでしょう?

 私はこう思っています。
 責め苦はあったのです。
 かれは確かにそれを受けていたのです。

 幼い頃に、夢の中で。

 因果律とか面倒な話はいっさい棚上げした妄想です。幼いレイストリンを苦しめた悪夢とは、遠い将来、奈落において受けるはずだった責め苦の先取りだったのではないでしょうか。だから、うさぎの影絵でお祓いできてしまうのです。だから、キャラモンが起きて=生きてかれを想っている限り、かれの眠りは守られているのです。

 年末からこっち、原文紹介という主旨からどんどん外れて妄想爆発してますが、ふふふ、こうなることは判っていたさ、自分のやることだもの。「伝説」に入ったらさらにやばいことになりそうですよ。

2015年1月14日水曜日

戦記5巻p333〜 信仰

DRAGONS OF SPRING DAWNING p184

“Speaking of impetuous half-elves,” Tanis interrupted in elven as he strode rapidly down the stairs. Riverwind, Goldmoon, and Berem followed, though they had no idea what was being said.

戦記5巻p333

「性急なハーフ・エルフで悪かったですね」タニスはエルフ語で遮りながら、大股に階段を駆け降りた。リヴァーウィンド、ゴールドムーン、ベレムが、会話の内容がわからないままに、後につづく。

Zebulah stopped in one of the sea-dark streets and peered at Goldmoon intently.

 ゼビュラは海のほの暗さをもつ街角で立ちどまり、じっとゴールドムーンを見つめた。

“The guilty were punished. But why the innocent? Why did they have to suffer? You wear the medallion of Mishakal the Healer. Do you understand? Did the goddess explain it to you?”

「罪ある者は罰をうけた。だが、なぜ罪なき者まで?なぜかれらまで苦しみを受けねばならなかったのだ?あなたは癒し手ミシャカルのメダリオンをつけている。あなたにはわかるか?女神はあなたに説明してくれたか?」

“Often I myself have questioned,”
“In a dream, once, I was punished for my questioning, for my lack of faith. Punished by losing the one I love.”

「わたくし自身、しばしばその疑問を問うてきました」
「そして、神々を疑ったことで、信仰が欠けていたことで、わたくしは一度、夢の中で罰を受けました。愛する者を失うという罰を受けたのです」

“But whenever I feel ashamed of my questioning, I am reminded that it was my questioning that led me to find the ancient gods.”

「けれども、その疑いや問いを恥じたくなるとき、わたくしはいつでも、そのみずからの至らなさこそが、わたくしをいにしえの神々の発見へと導いてくれたことを思い返すのです」

“No,”
“I do not have the answer to this great riddle. I still question. I still burn with anger when I see the innocent suffer and the guilty rewarded.”

「いいえ」
「この大いなる謎に対する答えは、わたくしにはありません。わたくしは今なお問うているのです。わたくしは今なお、罪なき者が苦しみ、罪ある者が栄えているのを見るとき、怒りに燃えます」

“But I know now that my anger can be as a forging fire. In its heat, the raw lump of iron that is my spirit is tempered and shaped to form the shining rod of steel that is my faith. That rod supports my weak flesh.”

「でも、今ではわたくしは、その怒りが鍛冶錬成の火にもなるのを知っています。その高温の火の中で、魂という未精錬の鉄塊が鍛えられ、形造られて、信仰という光り輝く鋼鉄の棒となるのです。その戒めの棒が、わたくしの弱き肉体の支えとなってくれます」

***

 疑うことも、問うことも、罪や罰されるべきことではないはずです。戦記1巻、ザク・ツァロスで、ミシャカルがこのように語っていましたね。

「愛しい僕よ、そなたの抱いた疑いを恥じることはありません。その疑問がそなたをわたくしたちのもとへ導き、その怒りがこれから待ち受けている多くの試練にそなたを耐えさせるのです」

 疑いを、問いを発することが出発点。それは科学も、ドラゴンランスで語られている宗教も同じなようです。そして彼女は、おそらくは作者ワイス&ヒックマンは、こうも言っているのでしょうか。答えはないと。神々は人々を救ってはくれないと。神々が与えるのはただ真理のみで、人はそれを手がかりにみずからを救済するしかないのだと。
 それならそれで別に構いません。もしこの世に「正しい」宗教というものがあって、その点を最初に強調しておいてくれさえすれば。ならば私はえせ宗教というものだけを憎んでいれば済みます。僧侶に多額のお布施をし、教義に反する書物を焼き、異教徒を殺せば救済されると騙る詐欺師達だけを。

2015年1月13日火曜日

戦記5巻p314〜 <大審問>

DRAGONS OF SPRING DAWNING p174

Caramon ran to his brother and lifted the frail body in his strong arms. Ignoring Raistlin’s frantic pleas to leave him alone, the warrior began to carry his twin from this evil Tower.

戦記5巻p314

 キャラモンは弟のもとに駆け寄り、細いからだをそのたくましい腕に抱き上げた。放してくれ、と半狂乱で抗うレイストリンの哀願を無視して、戦士は双子の弟をこの悪辣な塔から運び出そうとした。

What happened then made no sense. The watching Caramon blinked in astonishment. He saw himself cast a magic spell!

 つづいて起こった出来事は、常識を超えていた。見守っているキャラモンは、仰天して目を瞬いた。かれは、自分が魔法の呪文をかけるのを見たのだ!

Frightened and confused, Caramon turned back to watch.
He saw Raistlin rise slowly.
“How did you do that?”

 驚き、混乱して、キャラモンはふり返り、そして見た。
 レイストリンがゆっくりと立ち上がっていた。
「どうしてあんな術が使えたの?」

“No, Raistlin!” the real Caramon cried. “It’s a trick! A trick of this old man’s! I can’t do that! I’d never steal your magic from you! Never!”

「ちがう、レイストリン!」現実のキャラモンは叫んだ。「それはまやかしだ!この爺さんの企んだまやかしだ!おれにはあんな術は使えない。おれは絶対におまえの魔法を盗んだりはしていない!誓う!」

But the image Caramon, swaggering and brash, went over to “rescue” his “little” brother, to save him from himself.

 しかし、幻影のキャラモンは――偉そうにいばり返って――“かよわい”弟を“救い”に、弟を弟自身から助け出しに行った。

Raising his hands, Raistlin held them out toward his brother. But not to embrace him. No. The young mage, sick and injured and totally consumed with jealousy, began to speak the words of the one spell, the last spell he had strength to cast.

 レイストリンは両手をあげると、兄に向けた。しかし、それは兄に抱きつくためではなかった。否。若い魔法使いは、疲労と負傷に加えて嫉妬のあまり、前後の見境を失っていた。かれは残る体力をふりしぼって、最後の呪文を唱えはじめた。

Flames flared from Raistlin’s hands. The magical fire billowed forth, and engulfed his brother.
Caramon watched with horror, too stunned to speak, as his own image was consumed in fire….He watched as his brother collapsed onto the cold stone floor.

 炎がレイストリンの両手から噴き出した。魔法の火が轟音をたてて走り――そして、かれの兄をのみこむ。
 見ていたキャラモンは恐怖に包まれ、衝撃で言葉もなかった。かれの眼前で、かれの幻影が火に焼きつくされる……そして、弟は冷たい石の床にくずおれた。

***

 打ち込みながら泣きそうになりました。やはり、より深く傷ついたのはレイストリンの方だと思います。

 そもそも、人間が極限状態におかれたときの行動を責めることができるでしょうか。聞き伝えですが、こんな話があります。太平洋戦争末期、本土が空襲や機銃掃射に見舞われていた頃。必死で子供を抱いて逃げようとしたある親は、いよいよ銃撃が間近に迫ってきたとき、とっさに子供を自分の体の盾にしてしまったそうです。その親がその後の人生を、何を思って生きてきたか。子供心にずしりと重い話でした。
 小説ですが、中学の国語の教科書に載っていた「夏の葬列」という物語もあります。関心のある方はぐぐってみてください。

 レイストリンの場合は生命の危機ではありませんが、しかし生命よりも大事なものを奪われようとしていたのです。健康で、人気があって、自分にないあらゆるものを持っていた兄に、自分の持っていた唯一のものを。かれは兄を愛していなかったのかと問いますか?そもそも愛のない所に憎しみも存在し得ましょうか。

 私が同じ状況下におかれても、同じことをしていたはずです。自分だけのもの、自分の存在が拠って立つものを奪われそうになったら。

 ゲーム中でも、前衛キャラが何らかの手段で魔法みたいなものを行使すると、魔法使いキャラとして鬱屈した気分になります…自身、例えばウィザードリィで、戦闘中暇な後衛シーフに炎の杖使わせて雑魚焼きながら、不服げなメイジを「君の出番はまだあとだから!我慢して!」と(心の中で)必死になだめていました。

 このような気分を「大審問症候群」と名付けた鳥里悠一@u1_krsztさんに拍手です(引用:ご本人了承済み)
 うまくリンク張れなくて、「ツイートのサイト埋め込み」を利用しました。私のアカウントからもRTしておきますね〜。

2015年1月12日月曜日

戦記5巻p310〜 まことの力

DRAGONS OF SPRING DAWNING p172

“I’ve seen what you’re doing to him! You’re trying to murder him!”

“Your brother knew what he faced when he agreed to undergo these Trials. He knew death was the penalty for failure.”

戦記5巻p310

「ひどい仕打ちばかりして!あいつを殺すつもりなんだろう!」
「そなたの弟は、どんな目に遭うのか承知の上で、これらの<試練>を受けると決めたのだぞ。失敗が死であることも、当然承知のうえだ」

“He didn’t, not really,”
“If he did, he didn’t care. Sometimes his…his love for his magic clouds his thinking.”

“Love? No.”
“I do not think we could call it love.”

「嘘だ、きっと本気にはとっていなかったんだ」
「もし本気だったとしても、そこまでかまっていなかったんだ。あいつは時々……時々、魔法を愛するあまり、ほかのことはかまわなくなってしまうから」
「魔法への愛だと?いや、ちがう」
「それを愛と呼べるとは、わたしは思わぬ」

“To him, the gift is more than a tool to help him through life. To him, the gift is life.”

“He seeks knowledge and power that can be dangerous, not only to the user but to those around him as well.”

「このような者にとって、魔術の才能は生活の糧以上のものだ。このような者にとっては、才能こそ生きることそのものなのだ」
「知識と力を求めて、危険をも冒す――そしてその危険は、呪文を用いる当人のみならず、周囲の人々にも及びかねない」

“Thus we weed out the incompetent….”
“You’ve done your best to weed out Raistlin!”

「この試験を通して未熟者を排除し……」
「なりふりかまわずレイストリンを排除しようとしたくせに!」

“Magic! Tricks to keep kids amused! True power! Bah! It’s not worth getting killed over--“

「魔術だと!がきの喜ぶ小細工じゃないか。まことの力だと!ふん!そんなもののために命を賭ける値うちがあるものか――」

“Your brother believes it is,” Par-Salian said softly. “Shall I show you how much he believes in his magic? Shall I show you true power?”

「そなたの弟は、ある、と信じておるぞ」パー=サリアンが低く言う。「かれがどれだけ魔法に信頼を置いているか、見せてやろうか?そなたにまことの力を見せてやろうか?」

“Watch.”
“I am going to show you a vision of what might have been….”

「見よ」
「わたしがこれからそなたに見せるのは、起こりえたかもしれないことの幻影だ……」

***

 枢密会議の長、偉大なるパー=サリアン。あなたも所詮人の子、一人の魔法使いだったのですね。キャラモンに「がきの喜ぶ小細工」扱いされてかちんと来ちゃったんですか?それであんなことやっちゃったんですか?

 これほどむごたらしい<大審問>が後にも先にもあったとは思えません。

2015年1月11日日曜日

戦記5巻p305〜 水晶の都

DRAGONS OF SPRING DAWNING p169

Tanis bent quickly over the map, hoping for a clue to where and what this mysterious place was. The map was a miniature replica of the city! Protected by a dome of clear crystal, it was so exact in detail that Tanis had the strange feeling the city beneath the crystal was more real than the one where he stood.

戦記5巻p305

 タニスはさっそく地図を覗きこみ、この不可思議な場所の位置や正体を知る手がかりを探した。地図は地図でも、都の立体模型である。透明な水晶ドームの覆いがついたこの模型は、非常に正確だったので、タニスは、水晶の中の都のほうがかれの立つ実際の都よりも現実的であるような不思議な感覚を覚えた。

“Too bad Tas isn’t here,” he thought to himself wistfully, picturing the kender’s delight.

「タッスルがいればよかったのにな」かれは残念に思いながら、<ケンダー>の大喜びするさまを心に描いた。

Confused memories of his elven teachers came back to him, telling him stories of the Cataclysm, stories of the Kingpriest--

 タニスの脳裏に、エルフの教師たちから聞いた物語が入り乱れて甦った。<大変動>のこと、イスタルの神官王のこと――

“What is it?” he croaked in fear, clutching at Tanis.
The half-elf shook his head. He could not speak. The terrible implication of where they were and what was going on were breaking over him like red waters of the Blood Sea.

「どうした?」ベレムが恐怖に嗄れた声でタニスをつかむ。
 タニスはかぶりを振った。言葉が出てこなかった。ここはどこなのか、そして何がおきているのかについての恐ろしい暗示が、<鮮血海>の赤い海水のようにかれの頭上に砕けた。

“I know,”
“Come on, we’ve got to get out here.”

But how? How did you get out of a city that was supposed to have been blasted off the face of Krynn? How did you get out of a city that must lie at the very bottom of Blood Sea? How did you get out of--

「わかっている。さあ、行こう、ここから出なければ」
 しかし、どうやって?どうすれば、クリンの表から吹き飛ばされたと思われている都から脱出できるのだろう?どうすれば、<鮮血海>の海底に沈んでいるに違いない都から脱出できるのだろう?どうすれば――

Welcome, O noble visitor, to our beautiful city.
Welcome to the city beloved of the gods.
Welcome, honored guest, to
Istar.

ようこそ、高貴なる訪問客よ、われらが麗しの都へ。
ようこそ、神々に愛さるるこの都へ。
ようこそ、栄えある客人よ、
このイスタルへ。

***

 今回タイトルを「水晶の都」としましたが、水晶なのは模型を覆うドームだけです。ただ、「水晶宮」とは「竜宮」の別名でもあり、海に流された人々が辿り着く先としてのイメージに合致するかなと。
 毎回、エントリのタイトルを考えるのは楽しいです。小説でもブログでも、文章を書く作業の中で最も楽しみにしていることの一つがタイトル付けです。しかしこのブログ、最後までかぶらずにタイトル付け続けることができるんだろうか、ちょっと不安になってきました。いよいよとなったらこじつけさ!

2015年1月10日土曜日

戦記5巻p269〜 奸計

DRAGONS OF SPRING DAWNING p149

“Pardon, your ladyship,” he said sarcastically, “but the servants in your establishment have not thought fit to bring me a razor. I know how the sight of facial hair disgusts you elves!”
To his surprise, Bakaris saw his words draw blood.

戦記5巻p269

「失礼、姫君」皮肉めかして言う。「だが、姫君の館の召使いは、わたしに剃刀を持ってくるのを不穏当だと思ったらしい。あなたがたエルフ族にとっては、ひげ面を見るのはさぞご不快であろうが」
 バカリスの驚いたことに、かれの言葉はローラナを激怒させた。

“Get going. Why your miserable carcass is worth trading for Tanis--“
“Flint!” said Laurana tersely.

「さあ、歩け。おまえのようなつまらんやつが、なんでタニスとの交換につりあうのやら――」
「フリント!」ローラナがさっと制する。

Suddenly Bakaris understood!
Kitiara’s plan began to take shape in his mind.

 不意にバカリスは納得した!キティアラの計画が、かれの頭の中で全貌を現わしはじめた。

“I wouldn’t call him a prisoner, however, unless you speak of a prisoner of love. Kit must have tired of him. Ah, well. Poor man.”

「しかし、かれを捕虜とは呼べなかろう。“愛の”虜と呼ぶなら別だが。キットはかれに飽きたにちがいない。やれやれだな。気の毒なやつ」

“I used to come to Kalaman when I was little,” Tas said. Finding the slender piece of wire, his small, skilled hands slipped it inside the lock. “My parents brought me. We always came in and out this way.”
“Why didn’t you use the front gate,”

“Oh, yes. We would have used the front gate, but kender weren’t allowed in the city.”

「子供のころ、よくカラマンに来てたもん」タッスルは言った。細い針金を見つけると、かれは熟練した小さな手でそれを鍵穴に差しこんだ。「父さんと母さんに連れられて。ぼくら、いつもこうやって出入りしてたんだ」
「なぜ正門を使わんかったんじゃ?」

「そうそう、できれば正門を使ったろうけど、ケンダー族は市内立ち入り禁止だったからね」

“Elves have their own code of honor,” he sneered. “Or so you said the night you shot me with your cursed arrow.”
Laurana’s face flashed, but she made no answer nor did she fall back before his advance.

「エルフ族にはエルフ族独自の名誉規範があるのだろう」と嘲笑する。「あの忌々しい矢でわたしを射抜いたあの夜、あなたはそう言ったのではなかったかな」
 ローラナはさっと赤面したが、返答はせず、かれの接近にたじろぎもしなかった。

***

 そこで赤面したってことは、やっぱりやましい気持ちがあったんですか、姫。


Coming to stand in front of her, Bakaris lifted his right arm with his left hand, then let it fall. “You destroyed my career, my life.”

 彼女の真正面に立つと、バカリスは左腕で自分の右腕を持ちあげ、そしてだらりと落とした。「あなたはわたしの栄達の道を、わたしの人生を破壊した」

“Tell me one thing,”
“Is it true? Is Tanis with…with Kitiara? Th-the note said he was wounded at Vingaard Keep…dying!”

「ひとつだけ聞かせて」
「あれは本当なの?タニスは……キティアラと一緒にいるの?書状では、タニスはヴィンガールド城砦で負傷して……危篤だ、と!」

“How should I know? I’ve been locked in your stinking prison. But I find it difficult to believe he’d be wounded. Kit never allowed him near a fight! The only battles he wages are those of love….”

「どうしてわたしにわかる?ずっとあの臭い牢に監禁されていたのに。だが思うに、かれが負傷したというのはどうにも信じがたいな。キットがかれを戦闘になど出すものか!かれが一戦を交えるのは、寝床の中でだけだ……」

“You know, Flint,” Tas said solemnly. “Tanis was really fond of Kitiara. Do you remember that party at the Inn of the Last Home? It was Tanis’s Day of Life Gift party. He’d just ‘come of age’ by elven standards and, boy! Was that some party!”

「ねえほら、フリント」タッスルが重々しく言う。「実際、タニスはほんとにキティアラが好きだったじゃないか。<憩いのわが家亭>でのあのパーティ、憶えてる?タニスの生誕日パーティだよ。かれ、やっとエルフの基準で“成人”になったところでさ、それで――そうそう!すごいパーティだったね!」

***

 この世界のエルフの基準で成人って、いくつなんでしょうね?2巻によれば、クォリネスティを出たときのタニスは80歳で、人間年齢にして20歳だったとか。そして1巻開始時点で102歳ってことは、5年前には97歳。この17年間のどの時点でソレースに来て、キティアラと恋に落ちて、何歳で成人してこのパーティ?すごく気になってます。


“Do you remember? Caramon got a tankard of ale dumped over his head when he grabbed Dezra. And Raistlin drank too much wine and one of his spell misfired and burned up Otik’s apron, and Kit and Tanis were together in that corner next to the firepit, and they were--“

「憶えてる?キャラモンがさ、デズラをつかんだらビールの大ジョッキを頭からかけられちゃって。それから、レイストリンはワインを飲み過ぎて、呪文のひとつが失敗してオティックの前掛けを焼いちゃってさ、それから、キットとタニスは二人だけで暖炉の横のあの隅にすわって、そして二人は――」

***

 見てみたいっ、酔っぱらって呪文を失敗するレイスト!キットとタニスは二人だけでなにを!従士バーフット、その辺りもっと詳しくプリーズ!


Bakaris glanced at Tas in annoyance. The commander disliked being reminded of how close Kitiara really was to the half-elf.

 バカリスはいらだたしげにタッスルを睨んだ。かれは、キティアラが本当はあの<ハーフ・エルフ>とどれほど親しかったのかを思い出させられるのを嫌った。

***

 実際のところ、バカリスとタニスは会っていないんですよね。タニスがフロットサムにいる間、バカリスはずっと大司教の塔を包囲していたわけですから。それでも男の嫉妬は恐ろしい。世間では女の方が嫉妬深いかのように言われてますが、実際のところ、男の嫉妬の方がたち悪いですよ。キティアラ様ほどの自信がないかぎり、男心を弄ぶのはほどほどにしときましょうね、乙女の皆さん(全くやるなとは言わない)。


“In the name of Reorx,” the dwarf said, his voice breaking, “What is that?”

「レオルクスの名にかけて」フリントはかれた声で言った。「いったい、あれはなんじゃ?」

“Tell them we have the elfwoman. The Dark Lady will arrive tomorrow at noon, to discuss terms of surrender.”

「エルフ女がわれらの手中にあること、皆に伝えよ。<暗黒の女卿>が明日正午に訪れて、降伏条件を提示する」

“He was lying about Tanis. And so was Kitiara. He’s not with her, I know it!”

“How will I ever tell him?” he moaned. “How?”

「こいつはタニスのことで嘘をついた。キティアラもだ。タニスは彼女と一緒にはおらん、絶対に!」

「いったい、どう、タニスに告げればいいのやら?」かれはうめいた。「いったい、どう?」

***

 期待を裏切って申し訳ないです、フリント。とりあえずあなたは何も悪くないです。あなただけは。

2015年1月9日金曜日

戦記5巻p250〜 死の騎士

DRAGONS OF SPRING DAWNING p139

“A death knight!” he whispered in awe.

“This--this creature serves you?” he asked hoarsely.

“Let us say, we agree to serve each other.”

“Does he always frequent your bedroom?”

“He comes and goes as he chooses,”
“It’s his castle, after all.”

戦記5巻p250

「死の騎士!」アリアカスは畏怖にうたれてささやいた。

「これが――これがそなたに仕えているのか?」かれは語気荒く訊いた。

「言うなれば、お互いに仕えあっている、というところでしょうか」

「かれはいつもそなたの寝所に侍っておるのか?」

「わたしの決めることではありません」
「なんといっても、ここはかれの城なのですから」

Ariakas paused, a faraway look in his eyes, his mind running back over ancient legends.
“Lord Soth!” he said suddenly, turning to the figure. “Knight of the Black Rose.”
The knight bowed in acknowledgment.

 アリアカスははっとし、遠くに視線をさまよわせて、脳裏で古代の伝説を忙しく繰った。
「ソス卿!」不意にそう言って、かれは男をふり返った。「黒薔薇の騎士!」
 騎士は自認のしるしに一礼した。

“Do you mean to say that you are not losing on all fronts? That you are not being driven from Solamnia? That the dragonlances and the good dragons have not brought about ignominious defeat?” His voice rose with each word.

「そなたは全前線を失いつつあるのではない、とでも言うつもりか?ソラムニアから駆逐されつつあるのではない、とでも?ドラゴンランスと善竜族に不名誉な敗北を喫せられたのではない、とでも言うつもりか?」彼の声は一言ごとに高じた。

“They have not!”

「そのとおり!」

“It might work,”
“Of course, it will work,”

「これはうまくゆくかもしれぬ」
「もちろん、ゆきますとも」

“But the elfwoman--“
“Need not concern us,”
“This seems the weak link in your plans, Kitiara. What about Half-Elven? Can you be certain he won’t interfere?”

「しかし、例のエルフ女は――」
「案ずるに及びません」
「そなたの計画は、ここが弱点のようだ。ハーフ・エルフはどうなっている?かれが邪魔にはいらぬ確証でもあるのか?」

“It doesn’t matter about him. She is the one counts and she is a woman in love.”
“She trusts me, Ariakas. You scoff, but it’s true.”

「かれは問題ではありません。重要なのは彼女で、そして彼女は恋する女なのです」
「アリアカス卿、彼女はわたしを信用しています。閣下はお笑いになりますが、しかしそれが真実です」

“She trusts me too much and Tanis Half-Elven too little. But that’s always the way of lovers. The ones we love most are those we trust least.”

「彼女はわたしを信用し過ぎ、そしてハーフ・エルフのタニスを信用しなさすぎています。しかし、恋する者とは常にそういうもの。われわれは、最愛の相手を最も疑う性なのでしょう」

***

“The ones we love most are those we trust least.”

 大好きな台詞のひとつです。彼女がどれほどかれを愛していたことか。


The half-elf! What about him? Where was he, for that matter. Ariakas had heard a great deal about him, but had never met him. The Dragon Highlord considered pressing her on this point, then abruptly changed his mind. Much better to have in his possession the knowledge that she had lied. It gave him a power over this dangerous woman.

 あの<ハーフ・エルフ>!かれはどうなっているのか?それを言うなら、いったいかれはどこにいるのか?アリアカスはかれについて山ほど耳にしていたが、一度も会ったことはなかった。ドラゴン卿アリアカスは、この点について彼女に問い質そうと考えたが、不意に気を変えた。彼女が嘘をついたという事実は、かれが内々に秘めていたほうが、はるかに得策である。それにより、かれはこの危険な女の優位に立てるわけだ。

***

 この時キティアラは、タニスは弟たち共々鮮血海で溺れ死んだと思ってるのですよね。それも彼女が殺したようなものですよね。彼女以外それを知るものはいない、誰一人。なおかつそれを利用してローラナを嵌めちゃうこの剛胆さ。ああ痺れる。


Kitiara smiled at him, the charming, crooked smile that so many had found so captivating.
“Thank you, my lord,” she said, “I will not fail you again.”

 キティアラはかれに微笑を向けた。多くの人々を魅了してきた、くせのある微笑。
「感謝します、閣下」彼女は言った。「二度と閣下の期待は裏切らないでしょう」

“No,” said Ariakas coolly, ringing a small silver bell, “I can promise you that, Kitiara. If you do, you will find his fate”--he motioned downstairs where the wailing had reached a shivering pitch--“a pleasant one compared to your own.”

「そう願おう」アリアカスは冷ややかに言うと、小さな銀の鈴を振った。「忘れるでないぞ、キティアラ、もし今の言葉を違えれば、そなたはあのソス卿の運命でさえ」――とかれは、泣き声がおぞましいまでに高まった階下を示して――「そなたを待つ運命に比べれば快適なものだ、と知ることになろうぞ」

***

“captivate”「魅了する、虜にする」という訳が一般的ですが、生物学用語だと「捕獲する」なんて意味に使われたり。肉食系キティアラ様、向かうところ敵なし。

2015年1月8日木曜日

戦記5巻p245〜 皇帝

DRAGONS OF SPRING DAWNING p136

Ariakas inherited his position of authority from his father, who had been a cleric in high standing with the Queen of Darkness. Although only forty, Ariakas had held his position almost twenty years--his father having met an untimely death at the hands of his own son.

戦記5巻p245

 アリアカスの地位は、<暗黒の女王>麾下の高位の僧侶であった父親から受け継いだものである。まだ四十歳でありながら、アリアカスはこの地位に昇って二十年近かった――かれの父親が、自分の息子の手にかかって不慮の死をとげて以来である。

When Ariakas was two, he had watched his father brutally murder his mother, who had been attempting to flee with her little son before the child became as perverted with evil as his father.

 アリアカスは二歳にして、父親が、妻であるかれの母を惨殺するのを目撃していた。母は、愛しいわが子がその父親のような邪道に陥る前に、わが子を連れて出奔しようとしたのである。

Though Ariakas always treated his father with outward shows of respect, he never forgot his mother’s murder. He worked hard and excelled in his studies, making his father inordinately proud.

 アリアカスは外面的には父親に対して常に尊敬を装って接していたが、一時たりとも母のむごたらしい死のことを忘れたことはなかった。かれは一心に勉強し、卓越した成果を上げて、父親を大いに自慢がらせた。

Many wondered whether that pride was with the father as he felt the first thrusts of the knife-blade his nineteen-years-old son plunged into his body in revenge for his mother’s death--and with an eye to the throne of Dragon Highlord.

 十九歳になった息子が亡き母の復讐に――さらにはドラゴン卿の座をも狙って――短剣の刃を父のからだに埋めこんだとき、その鋭い切っ先を感じて、かれの父はやはり自慢に思ったであろうか、それは多くの人の好奇心を誘ったことだった。

***

 父親がどう思ったかは知りませんが、母親は草葉の陰で泣いてそうです。

「もっともよい復讐の方法は自分まで同じような行為をしないことだ」
(『自省録』マルクス・アウレーリウス:神谷美恵子訳)―言動力botさんより


Few there were who could look up Ariakas’s face without blenching. It was a face devoid of any human emotion.

 アリアカスの顔を見てたじろがずにいられる者は、まずいない。それはおよそ人間の感情というものを欠いた顔である。

“Stay on your knees, Kitiara,” he said. Slowly and deliberately he removed his long, shining sword from its scabbard. “Stay on your knees and bow your head, as the condemned do they come to the block. For I am your executioner, Kitiara. Thus do my commanders pay for their failure!”

「跪伏しておれ、キティアラ」かれは言った。思わせぶりにゆっくりと、かれは光る長剣を鞘から抜いた。「跪伏して頭を垂れておれよ、断頭台に登った罪人のようにな。余こそそなたの斬首人だ、キティアラ。余の指揮官はみな、己が失敗をかく償うのだ!」

Kitiara remained kneeling, but she looked up at him. Seeing the flame of hatred in her brown eyes, Ariakas felt a moment’s thankfulness that he held his sword in his hand. Once more he was compelled to admire her. Even facing imminent death, there was no fear in her eyes. Only defiance.

 キティアラは跪いたままでいたが、顔を上げてかれを見た。そのとび色の瞳に憎しみの炎を認めて、アリアカスは一瞬、わが手に剣を握っているのを感謝した。またしても、かれは彼女を賞賛せざるをえなかった。死を眼前に迎えても、彼女の眼には恐怖の色が皆無であった。あるのはただ挑戦の色のみ。

He raised his blade, but the blow did not fall.
Bone-cold fingers wrapped around the wrist of his swordarm.
“I believe you should hear the Highlord’s explanation,” said a hollow voice.

 かれは刃を上げたが、一撃は落ちなかった。
 骨のように冷たい指が、かれの利き腕の手首をつかんだのだ。
「まずドラゴン卿の釈明をお聞きになってはどうかな」虚ろな声がした。

2015年1月7日水曜日

戦記5巻p221〜 罠

DRAGONS OF SPRING DAWNING p122

“I didn’t ride out of a children’s story. I rode out of fire and darkness and blood.”

戦記5巻 p221

「わたしは、子供のお伽話から出てきたのではありません。わたしは、火と闇と血の中を通ってきたのよ」

I’m trapped, Laurana realized. She would have to sit here the rest of the afternoon, smiling and waving and enduring speech praising her heroism when all she wanted was to lie down in some dark, cool place and sleep.

(わたしは罠にかかったんだわ)とローラナは悟った。彼女は午後の残りをずっとここにすわったまま、望みといえばどこか暗くて涼しい場所で横になって眠ることだけだというのに、実際には、微笑し、手を振り、英雄的行為を讃えて次々と述べられる演説を耐え忍ばねばならないのだ。

And it was all a lie, all a sham. If only they know the truth. What if she stood up and told them she was so frightened during the battles that she could remember details only in her nightmares? Told them that she was nothing but a game piece for the Knights? Told them that she was here only because she had run away from her home, a spoiled little girl chasing after a half-elven man who didn’t love her. What would they say?

 それはすべて嘘、すべて偽りなのである。もしかれらが真実を知ったなら?彼女が立ちあがって、自分は戦闘中あまりに怖かったので、細部は悪夢の中でしか思い出せない、と群衆に告げたなら?自分は騎士団にとってはゲームの駒でしかない、と告げたなら?自分がここにいるのは、家出したからにすぎない――片想いの<ハーフ・エルフ>の男を追いまわす、甘やかされた小娘だったのだ、と告げたなら?人々はなんと言うだろう?

***

「横になる」lieと「嘘」のlieを引っ掛けてるんですね、ここ。


“Tanis Half-Elven received a wound in the battle of Vingaard Keep.”

“I do this only because we are two women who understand each other.
“Kitiara”

「ハーフ・エルフのタニスがヴィンガールド城砦の戦いで負傷した」

「わたしがこの配慮をするのは、ひとえに、われら二人がお互いを理解しあっている女同士だからである。
キティアラ」

“surely you don’t think Tanis--“
“Besides Kitiara’s a Dragon Highlord now. What would Tanis be doing with her--“

「まさかタニスのこと、本気にしてないよね――」
「それに、キティアラは今じゃドラゴン卿じゃないか。タニスが彼女と一緒にいるわけが――」

Laurana turned her face away abruptly. Tasslehoff stopped and glanced at Flint, whose own face suddenly seemed to age.

 ローラナが不意に顔をそむけた。タッスルホッフは口ごもって、フリントを見た。フリントの顔は、急に年老いたようだった。

“So that’s it,” the dwarf said softly. “We saw you talking to Kitiara on the wall of the High Clerist’s Tower. You were discussing more than Sturm’s death, weren’t you?”

「そうか、そうだったのか」<ドワーフ>は低く言った。「<大司教の塔>でおまえさんはキティアラと話をしていたっけ。おまえさんたちが話していたのは、スタームの死のことだけじゃなかったんだな?」

“I saw him with her in the dream, just as I saw Sturm’s death. The dream’s coming true….”

「私は夢でタニスが彼女と一緒にいるのを見た。そして、夢で見たのと同じようにスタームは死んだ。夢は次々と実現しているのよ……」

“I haven’t died yet, like in the dream,”
“Besides, Laurana, Tanis wouldn’t--“

「ぼくだって、夢の中みたいに死んだりしていないよ」
「第一、あのタニスが、ありえない――」

Flint shot Tas a warning glance. The kender lapsed into silence. But Laurana had seen the glance and understood. Her lips tightened.

 フリントがすばやく警告の視線をタッスルに投げる。タッスルがはっと黙り込んだ。しかし、ローラナはその視線を見逃さず、意味をも読みとった。彼女の唇が固く引き結ばれる。

“Yes, he would. You both know it. He loves her.”
“I’m going. I’ll exchange Bakaris.”

「いいえ、ありえるわ。二人とも知っているでしょう。タニスは彼女を愛しているのよ」
「わたしは行くわ。バカリスを交換しましょう」

Rising to her feet, she regarded Flint coldly, as if he were someone she had just met. The dwarf was, in fact, strongly reminded of her as he had seen her Qualinesti, the evening she had run away from home to follow after Tanis in childish infatuation.

 彼女は立ち上がり、まるで初めて会った人に対するような冷ややかな目でフリントを見た。フリントは、実際、クォリネスティでの彼女をまざまざと思い出さされた。初恋にのぼせあがり、タニスを追って家出をした、あの夜の彼女である。

***

 二つの罠に翻弄されて、ローラランサラーサ姫、振り出しに戻る。まあ仕方ないですね。年端もいかぬ娘を担ぎ上げて利用しまくった方が悪いです、はい。

2015年1月6日火曜日

戦記5巻p192〜 青銅竜

DRAGONS OF SPRING DAWNING p105

“Pardon me, Respected Sire,” Khirsah interrupted, using a term of high respect among dwarves, “may I be of assistance?”
Startled, Flint whirled around to see who spoke.

戦記5巻p192

「失礼ながら、尊きご老公」キルサーは、ドワーフ間でのとっておきの敬語を使って、口をはさんだ。「お力添えさせていただきましょうか?」
 フリントは仰天して、誰がしゃべったのかとふり向いた。

The dragon bowed its great head. “Honored and Respected Sire,” Khirsah said again, in dwarven.
Amazed, Flint stumbled backward, tripping over Tasslehoff and sending the kender to the ground in a heap.

 ドラゴンは大きな頭を垂れた。「誉れ尊きご老公」キルサーは再びドワーフ語で言った。
 フリントは驚いてあとずさり、タッスルホッフにぶつかって、かれを地面に突きころばした。

“Well, I--I don’t know,” stammered Flint, flushing in pleased embarrassment at being thus addressed by a dragon. “You might…and then again you might not.” Recovering his dignity, the dwarf was determined not to act overawed.

「さて、ど、どうかな」フリントは竜からこのように呼びかけられて、嬉しいやらまごつくやらで、赤面しながらどもった。「では、頼もうか――いや、やはり結構じゃ」威厳を取り戻して、フリントは卑屈になるまいと決めた。

“Just that I’ve had more important things on my mind lately,”
“and it may take me a while to get the hang of it again.”

「ただ、近ごろ、より重要なことごとが気にかかっていただけじゃ」
「それで、こつを取り戻すのに少し時間がかかるかもしれん」

“Certainly, Sire,” Khirsah said without the ghost of a smile. “May I call you Flint?”
“You may,” said the dwarf gruffly.

「それはもちろんでしょうとも、ご老公」キルサーは微笑の片鱗も洩らさずに言った。「フリント、とお呼びしてもかまいませんか?」
「うむ」フリントはぶっきらぼうに答えた。

“My name to mortals is Fireflash.” The dragon gracefully bowed his head. “And now, if you will instruct your squire, the kender--“
“Squire!”

「定命の者のあいだでは、ファイアフラッシュと呼ばれている」ドラゴンは優雅に頭を下げた。「では、あなたの従士のケンダーに――」
「ぼくが従士だって!」

***

 些細なことですが、”squire”と”squirrel”(リス)って似てますね。意外と「炉辺のネコと冬のみそさざい」はここに着想を得ていたりするのかもしれません。リスになったり従士になったり、忙しいタッスル。


“Instruct your squire to come up here; I will help him prepare the saddle and the lance of you.”

“Sir Flint probably isn’t accustomed to this newer model, Squire Burrfoot.”

「従士のケンダーにここへ登るようご命令ください。そうすれば、ぼくが手伝って、かれに鞍と槍のご用意をさせましょう」

「これは新型ゆえ、サー・フリントもお慣れになっていないかもしれない、従士バーフットよ」

“Hey! How do I steer?”
“You indicate which direction you want me to turn by pulling on the reins,”
“Ah, I see,”
“After all, I am in charge--ulp!”
“Certainly, Sire!”

「おい!方向転換はどうやって指示するんじゃ?」
「行きたい方向に手綱を引いてくだされば結構です」
「おお、わかったぞ」
「少なくとも、主導権はわしにあるわけだな――うっぷ!」
「もちろんですとも、ご老公」

“Wait, the reins--“ Flint cried, grasping at them as they slid out of his reach.
Smiling to himself, Khirsah pretended not to hear.

「待て、手綱が――」フリントが叫びながら手をのばしたが、手綱は手の届かないところへ逃げてしまった。
 キルサーは独りでにっこりすると、聞こえないふりをした。

***

 ドラゴンランス、その基盤であるD&Dの設定では、色の名前がついているのが悪竜で、金属の名前がついているのが善竜だそうですが。「青銅竜」というとどうしても、アン・マキャフリイの『パーンの竜騎士』シリーズが思い出されます。雄竜の中で最も強く大きく、女王たる黄金竜とつがいになれる位、青銅竜。フ=ラルの騎竜ニメンスも、いい性格してたなあ。

2015年1月5日月曜日

戦記5巻p167〜 成算

DRAGONS OF SPRING DAWNING p90

“How many?” Flint asked, squinting.
“Ten,” Tas answered slowly. “Two flights. Big dragons, too. Maybe the red ones, like we saw in Tarsis.”

戦記5巻p167

「何頭だ?」フリントは目を狭めて訊いた。
「十頭」タッスルはゆっくりと答えた。「二小隊だ。しかも、大きいドラゴンだよ。赤いやつらかもしれない、タルシスで見たような」

”I can’t see their color against the dawn’s light, but I can see riders on them. Maybe a Highlord. Maybe Kitiara…Gee,” Tas said, struck by a sudden thought, “I hope I get to talk her this time. It must be interesting being a Highlord--“

「朝焼けと混じって、色が見分けられないけど、乗り手がいるのはわかる。たぶん、ドラゴン卿だ。たぶん、キティアラ……あ、そうだ」タッスルは不意に思いついて言った、「ぼく、今度こそ彼女と話してみたいな。ドラゴン卿になるってのは、きっとおもしろいはず――」

Tas stared eastward. He couldn’t believe his eyes, so he leaned far out, perilously close to falling over the edge of the wall.

 タッスルは東天を睨んだ。自分の眼が信じられなくて、かれはぐっと身をのりだし、胸壁の縁を越えて落ちそうになった。

“It’s like in Pax Tharkas!” Tas babbled incoherently. “Like Huma’s Tomb. Like Fizban said! They’re here! They’ve come!”

「パックス・タルカスにあったとおりだ!」タッスルは支離滅裂にしゃべりたてた。「ヒューマの墓所にあったとおりだ。フィズバンの言ったとおりだ!かれらが来たんだ!かれらが来てくれたんだ!」

Now he could make out what had been nothing more than a haze of pink light broken by the darker, pointed masses of the mountain range.

 今や、かれにも見わけられた。先ほどまでは、黒い固まりのような険しい連山に遮られた、ただの薄紅のぼんやりした光のようにしか見えていなかったものが。

But he’d worn the glasses just long enough to see the dawn touch the wings of dragons with a pink light, pink glinting off silver.

 しかし、眼鏡をかけていたわずかな時間に、かれはちゃんと見てとっていた。曙の光が薄紅に染めた、ドラゴンの翼の色を――薄紅に染まった銀色の翼を。

“Put your weapons down, lads,” Flint said to the men around him, mopping his eyes with one of the kender’s handkerchiefs. “Praise be to Reorx. Now we have a chance. Now we have a chance….”

「みんな、武器をおろしていいぞ」フリントは周囲の兵たちに言い、<ケンダー>のハンカチのうちの一枚で眼をぬぐった。「レオルクスの御名を讃えん。これで成算が訪れたぞ。これで成算が訪れたぞ……」

***

 もしもドラゴンランスが映画化されたなら、このシーンにはどれだけ華々しいBGMがつくんだろうと想像するだけで鳥肌が立ちます。そういうシーンは多々ありますね。でも「夏の炎の竜」のスティールとカオスの対峙、あそこは音楽いらないなあ。効果音と台詞だけで逝けます、たぶん。

2015年1月4日日曜日

戦記5巻p152〜 喪失

DRAGONS OF SPRING DAWNING p83

“’Therefore, I appoint to fill the position of leadership of the Knights of Solamnia, Lauralanthalasa of the royal house of Qualinesti…’” The Lord paused a moment, as if uncertain he had read correctly.

戦記5巻 p152

「『それゆえ、わたしはソラムニア騎士団の指揮官の位に、クォリネスティ王家のローラランサラーサを指名する――』」太守は、まるで読み間違いではないかと確かめるように、一瞬口ごもった。

An elfmaid from the royal household. Not even old enough, by elven standards, to be free of her father’s house. A spoiled little girl who had run away from her home to “chase after” her childhood sweetheart, Tanis Half-Elven. That spoiled little girl had grown up. Fear, pain, great loss, great sorrow, she knew that, in some ways, she was older than her father now.

 王家の出のエルフ乙女。いまだ未成年――エルフの平均年齢からみれば――で、父親の保護下になければならない身の。子供時代の恋人<ハーフ・エルフ>のタニスを追って家出をしてのけた、甘やかされた小娘。その甘やかされた小娘は、成長をとげていた。恐怖、苦痛、多大な喪失、深い悲哀――彼女はそれを知っていた――ある面では――彼女は今では父親よりも齢を重ねていた。

“I don’t want this,”
“I don’t believe any of us were sitting around praying for a war,”
“But war has come, and now you must do what you can to win it.”

「わたしはこんなことは望みませんでした」
「ここに臨席している中に、戦を望んでいた者などいようはずがない」
「それでも、戦は向こうからきた。今はあなたが、戦に勝つためにできることをなさねばならない」

“I have seen love that, through its willingness to sacrifice everything, brought hope to the world. I have seen love that tried to overcome pride and a lust for power, but failed. The world is darker for its failure, but it is only as a cloud dims the sun.”

「わたしはかつて、何物をも犠牲に捧げて悔いない献身により、愛が世界に希望をもたらすのを見た。わたしはまた、自尊心や力への渇望を克服しようとして失敗した愛も目にした。その失敗のせいで世界は暗くなったが、しかしそれは、雲がつかのま太陽を翳らせるようなものでしかない」

***

 前者はヒューマと、シルヴァラの姉のことでしょうか。後者はクリサニア?(「目にした」、と過去形で語られていますが、アスティヌスのような存在にとって、過去も未来も関係ないのではないでしょうか)


“The sun--the love, still remains. Finally I have seen love lost in darkness. Love misplaced, misunderstood, because the lover did not know his--or her--own heart.”

「世界は――愛は――常に輝いているのだ。それから、わたしは闇の中に見失われた愛も見た。その愛は、誤って与えられた愛、誤って理解された愛だ。それというのも、その男――あるいは女――が自分の心をわかっていなかったからなのだ」

***

 と来ると、やっぱりキティアラがイメージされます。それともタニス?ローラナは一度かれを喪って取り戻したのでしょうか、それとも最初から喪ってはいなかったのでしょうか。


“My advice to you is: concentrate on your duty.”

“I will take the leadership of the armies,” she said in a voice nearly as cold as the void in her soul.

「私からの助言は、『自分の務めに集中せよ』だ」

「全軍の指揮権、わたしが受けましょう」その声は、彼女の胸中の空洞に劣らないほど冷えびえとしていた。

2015年1月3日土曜日

戦記5巻p118〜 歴史家

DRAGONS OF SPRING DAWNING p63

“So this ends your journey, my old friend,” Astinus said without compassion.
Raistlin raised his head, his golden eyes glittering feverishly. “You do know me! Who am I?” he demanded.
“It is no longer important,” Astinus said. Turning, he started to walk out of the library.

戦記5巻p118

「では、これでそなたの旅は終わりだな、わが旧友よ」アスティヌスは無感情に言った。
 レイストリンが頭を上げ、金色の眼に熱病めいた光が点った。「あなたはやはりぼくをご存知なんだ!ぼくはいったい誰なんです?」
「それはもはや重要ではない」アスティヌスはそう言うと、背を向け、図書館から歩み去りかけた。

“Don’t turn your back on me as you have turned it on the world!” Raistlin snarled.

「世界に背を向けてきたくせに、ぼくにまで背を向けるな!」レイストリンが怒鳴った。

“Turn my back on the world…” the historian repeated softly and slowly, his head moving to face the mage. “Turn my back on the world!” Emotion rarely marred the surface of Astinus’s cold voice, but now anger struck the placid calm of his soul like a rock hurled into still water.

「世界に背を向けて……」歴史家はゆっくりとおうむ返しに言いながら、魔法使いをふり返った。「世界に背を向けてきた、だと!」喜怒哀楽というものがアスティヌスの冷ややかな声の表面を損なうことは稀であるが、今、静かな水に石が投げこまれたように、かれの精神の平静さを怒りが打ち砕いた。

“If I seem cold and unfeeling, it is because that is how I survive without losing my sanity!”

「わたしが冷淡で無情に見えるとすれば、それは、そうしなければ正気を失わずに生きてこられなかったからだ!」

Astinus’s eyes flared as he gazed upon the dying man. The words he hurled at him had been pent up inside the chronicler for countless centuries.

 アスティヌスは、ぎらぎらと燃える眼で、瀕死の若者を見おろした。アスティヌスの投げつけた言葉は、かれの内部に何世紀ものあいだ閉じこめられていたものだったのだ。

“I know who you are,” Raistlin murmured with his dying breath. “I know you now and I beseech you--come to my aid as you came to my aid in the Tower and in Silvanesti! Our bargain is struck! Save me, and you save yourself!”

「あなたが誰なのかわかった」レイストリンは末期の息とともにつぶやいた。「ようやくあなたがわかった。今こそ願う――ぼくの手助けに来てほしい、ウェイレスの<塔>やシルヴァネスティでぼくの手助けに来てくれたように!われわれの取り引きはまだ生きている!ぼくを救わねば、あなた自身も救えないはず!」


***

"beseech":格式語。願う、嘆願する。

 英文を読む時、極力辞書は引かないで、文脈で捉えてあとは流せ、と教わってきたんですが、こういう言葉は引かずにはいられません。格式張った言い回し、好きなんです。日本語の文章を書く時にも、イマジネーションが広がると思いませんか?

2015年1月2日金曜日

戦記5巻p89〜 二つの言葉

DRAGONS OF SPRING DAWNING p46

Tanis stared at them both, sick with horror. He couldn’t believe this! Not even of Raistlin! “Caramon, go ahead!”

戦記5巻 p89

 タニスは二人を見つめながら、恐怖で胸が悪くなった。こんな話は、とても信じられない!いくらレイストリンの話でも。「キャラモン、早くかかれ!」

“Don’t make him come near me, Tanis,” Raistlin said, his voice gentle, as if he read the half-elf’s thoughts. “I assure you, I am capable of this. What I have sought all my life is within my grasp. I will let nothing stop me.”

「かれをけしかけちゃいけない、タニス」レイストリンの声は、まるでタニスの考えをすっかり読んでいるように、優しい。「はっきり言っておこう――ぼくにはできるのだ。ぼくが生涯をかけて求めてきたものが、今や目前にあるのだから。何ものにも邪魔などさせない」

“Look at Caramon’s face, Tanis. He knows! I killed him once. I can do it again. Farewell, my brother.”

「キャラモンの顔を見てごらん、タニス。かれにもわかっているんだ!ぼくは一度かれを殺している。もう一度だってできるんだ。さようなら、兄さん」

***

"once"だから"again"できる。"gentle"なはずの声から血が滴っているように感じます。


Tika crouched beside Caramon, her fear of death lost in her concern for him. But Caramon wasn’t even aware of her presence. He stared out into the darkness, tears coursing down his face, his hands clenched into fists, repeating two words over and over in a silent litany.

 ティカはキャラモンのかたわらにうずくまり、かれへの心配で、自分の死の恐怖を忘れていた。しかし、キャラモンは彼女がいることに気づいてもいなかった。かれは闇の中を見つめたまま、とめどなく涙を流し、両手を握りしめ、二つの言葉を何度も何度も、お題目のように、無言で繰り返していた。

After all was gone, two words lingered like a benediction.

“My brother…”

 すべてが消え失せたあと、二つの言葉が、祝福の祈りのように、小さく漂い残っていた。

「さようなら、兄さん……」

***

 キャラモンが繰り返していた「二つの言葉」が何なのか、ずっとわからずにいました。
「さようなら、兄さん……」のどこが祝福の祈りのようなのかも不可解でした。

“My brother…”

 これだったんですね。
 レイストリンが放った最後の言葉。キャラモンが繰り返していた言葉。そうと明記されてはいませんが、原文を読んでそのように感じました。

 日本語訳は流れから言ったら「さようなら、兄さん……」なのかも知れませんが、これだとレイストの言葉にしかなりませんよね。キャラモンの言葉にも聞こえるような訳し方って………うう、無理だ。

 みんな文系英語究めて原文読もうじゃないか!いや無理ですか。という訳で今年も張り切って更新していきます!
 最低でも「伝説」コンプ!
 可能ならセカンド、サマフレ、ソウルズ完結まで!
 さすがに外伝は無理ですが。

2015年1月1日木曜日

戦記5巻p88〜 真相

 あけましておめでとうございます。今年もWoDをよろしくお願いします。

DRAGONS OF SPRING DAWNING p46

--Raistlin’s voice was calm--“or at least I thought it was Caramon.”

“As it turned out, it was an illusion created to teach me the depth of my hatred and jealousy.”

戦記5巻p88

――レイストリンの声は穏やかだった――「いや、少なくとも、ぼくはそれがキャラモンだと思っていた」
「あとでわかってみると、それはただの幻影で、ぼくに自分の憎悪感や嫉妬心の深さを学ばせるために作られたものだった」

“Thus they thought to purge my soul of darkness. What I truly learned was that I lacked self-control. Still, since it was not part of the true Test, my failure did not count against me--except with one person.”

「それによって、審問官たちは、ぼくの心に巣食う闇を浄化しようと考えたわけだ。しかし、ぼくが本当に学んだのは、自分に自制心が欠けているということだった。とはいえ、その試練は<大審問>の一部ではなかったため、ぼくの失敗は汚点とはみなされなかった――たった一人を除いてね」

***

 審問官たち、その筆頭たる大パー=サリアン。あなたは間違っていたと思います。人の心を遠慮なく暴き立てて、闇を、憎悪を、嫉妬を”purge”する?そんなの、腹をかっ捌いて臓器を切り取ろうとするようなものではないですか。それも麻酔もなしに。

 まだ竜槍病が再燃する前、あるゲームで、こんな事情で闇堕ちしてしまった魔術師が出てきたんです。 

「(ネタバレな事情により)
他人に殺されるくらいならと、ひと思いに俺が殺った……。

兄殺しの大罪を背負ったからには、どんなことでもできる!
どんな罪をも恐れず犯し、力を身につけて……
(ネタバレ)に復讐すると心に誓ったッ……!」

 想いはまったく異なるとは言え、即座にかれが想起されました。

 心の闇をpurgeするどころか、むしろそれこそが、レイストリンの心を闇路に押しやったのではありませんか?かの魔術師と同様に。そのことが、キャラモンよりもレイストリンをこそどれほど深く傷つけ、自分自身に絶望させたことか。

 黒エルフとの戦いで、心身ともに極限まで追いつめられていたレイストリンの真の力を引き出し、歩むべき道を見いださせたかったと本当に思っていたのなら、見せるべきはキャラモンの幻影ではなかった筈です。


 何か小さく、弱くて、惨めな存在が、強者に虐げられる様を見せれば良かったんです。


 読者様、どう思われますか?
 もしそうであったとしたら、レイストリンはどうしていたと思いますか?

 パー=サリアン、あなたはレイストリン・マジェーレという若者を見誤っていました。



“I watched him kill me!”
“They made me watch so that I would understand him!”

「おれは、こいつがおれを殺すのを見ていた!」
「審問官たちは、おれがこいつを理解するようにと、おれに見させたんだ!」

“I do understand!”
“I understood then! I’m sorry! Just don’t go without me, Raist! You’re so weak! You need me--“

“No longer, Caramon,” Raistlin whispered with a soft sigh. “I need you no longer!”

「おれは理解しているとも!」
「あのとき理解したんだ。しなけりゃよかった!だから、頼む、おれを置いて一人で行くな、レイスト!おまえはそんなに弱いのに。おまえにはおれが必要だ――」

「もうちがうよ、キャラモン」レイストリンがそっとため息まじりにささやいた。「ぼくにはもう兄さんは必要ないんだ!」

***

 伝説1巻の、ブープーがパー=サリアンに啖呵切るシーンで語ろうと思っていた話、我慢できずにここでぶちまけちゃいました。私にも自制心が欠けているようです。