2015年2月11日水曜日

戦記6巻p235〜 "Go!"

DRAGONS OF SPRING DAWNING p347

“Farewell, Tanis,” Laurana called to him in elven. “I owe you my life, but not my soul.”

戦記6巻p235

「さようなら、タニス」ローラナはエルフ語で高らかに言った。「助けていただいたのは“命”だけ。“心”ではなかったわ」

“Laurana!” he shouted, then in elven, “Quisalas!”

「ローラナ!」タニスは叫んで、エルフ語で続けた。「クィサラス!」

Tanis gasped in a voice as shattered as Raistlin’s had once been, “don’t leave me. Wait…listen to me please!”

 タニスは、かつてのレイストリンのようなかすれ声で喘いだ。「行かないでくれ。待って……おれの話を聞いてくれ、頼む!」

Then torchlight flared, blinding them, and a voice spoke.

 と、そのとき、松明が燃え上がって二人の眼をくらませ、そして声が響いた。

“Tell Laurana what, Tanis?” said Kitiara in a pleasant voice. “Go on.”

「ローラナに何を言うって、タニス?」キティアラが愉快げな声で、「先をおつづけ」

A naked sword gleamed in her hand. Wet blood--both red and green--glistened on the blade. Her face was white with stone dust, a trickle of blood ran down her chin from a cut on her lip. Her eyes were shadowed with weariness, but her smile was still as charming as ever. Sheathing her bloody sword, she wiped her hands upon her scattered cloak, then ran them absently through her curly hair.

 抜き身の剣が彼女の手の中でぎらついた。その刃は、鮮血――赤色、緑色両方の鮮血――でてらてらとしている。彼女の顔は砂埃で白くなり、唇の切り傷から顎にひとすじ血が滴っている。眼には疲労の隈ができているが、その微笑は今なお変わらず魅力的である。血まみれの剣を鞘に収めると、彼女は裂けたマントで両手をぬぐい、その手で無頓着に巻毛をかき上げた。

***

 砂埃に汚れ血が滴ってはいても、いやそれゆえにでしょうか、このシーンのキティアラ様が最も美しく鮮やかに想像されます。「無頓着」な割には髪を梳く前に手をぬぐっていますが。いっそ血まみれのままやってくれても、それはそれで壮絶に美しそうな気もします。


“Let her go, Kitiara,”
“Keep your promise and I’ll keep mine. Let me take her outside the walls. Then I’ll come back--“

「ローラナは行かせてくれ、キティアラ」
「君が約束を守ってくれるなら、おれも約束を守る。彼女を市壁の外へ送り届けたら、おれは必ず戻ってくる――」

“I really believe you would,”
“Hasn’t it occurred to you yet, Half-Elf, that I could kiss you and kill you without drawing a deep breath in between?”

「それはちっとも疑っていないよ」
「考えてみたことはないのかい、ハーフ・エルフ、わたしはおまえに口づけをしながら、息つく間もなくおまえを殺すことができるということを?」

***

 ほぼ同じ時刻に、同じ場所で、最愛の相手に”I can(could) kill you”と告げている姉弟。


“No, I don’t suppose it has. I might kill you right now, in fact, simply because I know it would be the worst thing I could do to the elfwoman.”

「いや、ないに決まっているな。実際、わたしはたった今おまえを殺すかもしれないのだよ、それこそ、そのエルフ女に対してわたしが加えうる最悪の仕打ちだ、というだけの理由でね」

Kitiara’s hand tousled her hair again.
“But I haven’t time.”

 キティアラは再び指で髪を梳いた。
「だが、今はその時間がない」

***

「息つく間もなく」できるくせに、余裕で髪なんか梳きながら「時間がない」って、全くもう、このお人は。


“Mine will be a vast empire. We could rule toge--“

“Lord Soth,”

「我が帝国は広大な帝国となるだろう。おまえと二人で共に治めることもできようが――」

「ソス卿か」

“Lord Soth will have to kill me to reach her, Kit. And even though I know my death will not stop him, or you, from killing her when I have fallen, with my last breath, I will pray to Paladine to protect her soul. The gods owe me one. Somehow I know that this, my final prayer, will be granted.”

「ソス卿が彼女を捕らえようとするなら、まずおれを殺さねばならないだろう、キット。そして、おれが死ねばソス卿が――それとも君が――ローラナを殺すのを止められはしないにしても、おれはいまわのきわには必ずパラダインに祈って、彼女の魂を守ってもらう。神々はおれにひとつ借りがあるのだ。これが――おれの臨終の祈りが――聞き届けられるのには、なぜだか確信がある」

Then she laid her blood-stained hand upon Tanis’s arm. “Go!” she commanded harshly. “Run quickly, back down the corridor. At the end is a door in the wall. You can feel it. It will lead you down into the dungeons. From there you can escape.”

 やがて、キティアラは血に染まった手をタニスの腕に置いた。「お行き!」と語気荒く命じる。「急いで回廊を戻るんだ。回廊の突き当たりの壁に扉がある。触ればわかる。扉の向こうは地下牢だ。そこからなら脱出できるだろう」

“A trap!”
“No,” Tanis said, his eyes going back to Kit. “Not this time. Farewell, Kitiara.”

「罠よ!」
「いや」タニスはキットに視線を戻した。「今回は、違う。さらばだ、キティアラ」

Kitiara’s nails dug into his arm.
“Farewell, Half-Elven,” she said in a soft, passionate voice, her eyes shining brightly in the torchlight. “Remember, I do this for love of you. Now go!”

 キティアラの爪がかれの腕にくいこんだ。
「さらばだ、ハーフ・エルフ」彼女は情熱的な声で低く言った。その瞳は松明の光の中で明るく輝いていた。「忘れないでおくれ、これはおまえを愛しているからだよ。さあ、お行き!」

***

 追記です。今日は帰りが遅くなりそうだったので、17時にスケジュール公開してあったんですが、お出かけ中に考えました。
 この時この姉弟は、"I can(could) kill you"と言いながらそうせず、"Remember,"に続いて自らの意図を告げるところまで同じなのですね。いかようにも訳せる"Remember"を全く同じ「忘れないでおくれ」としているのはわざとなんでしょうか?

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