2015年2月13日金曜日

戦記6巻p266〜 緑竜

DRAGONS OF SPRING DAWNING p365

Caramon cried out, just as lightning sizzled from Raistlin’s fingertips. Screaming in agony, the draconians burst into flame and fell, writhing, to the ground.

戦記6巻p266

 キャラモンが大声をあげたが、その瞬間、レイストリンの指先から稲妻が噴き出した。ドラコニアンは絶叫とともに炎に包まれ、もがきながら地面に倒れた。

“You didn’t need to do that, Raistlin,”

“The war’s over,” Caramon added sternly.

「そこまですることなかったのに、レイストリン」

「戦争は終わったんだ」キャラモンが厳しく言い添える。

“Is it?”
“It is weak, sentimental twaddle like that, my brother, which assures the war’s continuation.”

「そうかな?」
「戦争が続いていくのは、兄さん、そんなふうなひよわで感傷的な戯言のせいだよ」

“A dragon!”
“It seems familiar, somehow.”

“You have,”
“in the dream. This is Cyan Bloodbane, the dragon who tormented poor Lorac, the Elven King.”

“He comes at my command,”
“he has come to take me home.”

「竜だ!」
「なんだか見覚えがあるみたい」

「あるんだよ」
「夢の中でね。これがカイアン・ブラッドベイン、哀れなエルフ王ロラックを苛んでいた竜だ」

「ぼくの命令でやってきたのだ」
「かれがぼくを故郷へ運んでくれる」

The dragon circled lower and lower, its gigantic wingspan spreading chilling darkness. Even Tasslehoff(though he later refused to admit it)found himself clinging to Caramon, shivering, as the monstrous green dragon settled to the ground.

 竜は螺旋降下にはいった。巨大な翼が冷え冷えとした闇を展開する。タッスルホッフでさえ(後になってかれは認めようとしなかったが)思わずキャラモンにしがみついて震えるなか、けたはずれのその緑竜は地面に降り立った。

“Wait! Raistlin!” Caramon cried raggedly. “I’ll go with you!”

「待て!レイストリン!」キャラモンは必死の声をあげた。「おれも一緒に行く!」

***

 わかっているのですね。かれの「故郷」がもはやソレースではないことを。


 “Would you?” Raistlin asked softly, laying a soothing hand upon the dragon’s neck. “Would you go with me into darkness?”

「ほんとうに?」レイストリンはそっと訊きながら、竜の首をなだめるように撫でた。「ほんとうにぼくと一緒に闇の中へ行くのかい?」

***

 竜の首を撫でてなだめるのはお姉様直伝ですか。それとも本能ですか。どちらでもいいので撫でられた…(略)


“I truly believe you would,” the mage marveled, almost to himself. For a moment Raistlin sat upon the dragon’s back, pondering. Then he shook his head, decisively.

「兄さんならほんとうにくるだろうね」魔法使いはほとんど独り言のように感嘆した。つかの間、レイストリンは竜の背の上で考えこんだ。しかし、きっぱりとかぶりを振る。

“No, my brother, where I go, you cannot follow. Strong as you are, it would lead you to your death, We are finally as the gods meant us to be, Caramon--two whole people, and here our paths separate.”

「いや、だめだ、兄さん。ぼくの行くところへは兄さんはついてこられない。いくら力が強くても、それは兄さんにとって死に至る道だ。ぼくらは結局、神々が予定されていたとおりの存在になったんだよ、キャラモン――二人の全き人間、にね。そして、ここでぼくらの道は分かれるんだ」

“You must learn to walk yours alone, Caramon”--for an instant, a ghostly smile flickered across Raistlin’s face, illuminated by the light from the staff--“or with those who might choose to walk with you. Farewell, my brother.”

「兄さんも自分の道を一人で歩いてゆくことを学ばなければならない」――一瞬、レイストリンの顔にかすかに笑みが走ったのが杖の光で映し出された――「あるいは、兄さんと歩いてゆくことを選んだ者たちとでも。さようなら、兄さん」

***

"Farewell, my brother."
 今度こそ、祝福の祈りに聞こえます。なのにそれを受け入れられない困った兄。

「天空の金竜の書」はあと2回で終わります。それから「帰郷」と「レイストリンの告別」。ははは6巻30回ですよ。しかも長い。最初は名台詞だけの予定だったのに、気が付いたらあれもこれもと止まりませんでした。
「告別」は全文やっちゃいます。あれを部分的に抜き出すなんてできません。

2015年2月12日木曜日

戦記6巻p256〜 復讐

DRAGONS OF SPRING DAWNING p359

Soth’s flickering gaze turned to Kitiara. The pale lips curled in derision. “The half-elven man remains your master still.”

“No, I think not,” Kitiara replied. Turning, she looked after Tanis as the door shut behind him.

戦記6巻p256

 ソスの明滅する視線がキティアラに向かった。青白い唇が冷笑を浮かべる。「あのハーフ・エルフは依然としてそなたの主なのだな」

「いや、そうは思わぬ」キティアラは振り返って、タニスを眼で追い、扉が閉まるのを見送った。

***

“derision”冷笑というよりも嘲笑のイメージが強いです。ここでキティアラ様が素直な反応を示していたら、話はまた違っていたでしょうね。


“Sometimes, in the still watches of the night, when he lies in bed beside her, Tanis will find himself thinking of me. He will remember my last words, he will be touched by them.”

「タニスはきっと、夜のしじまに彼女と並んで寝床に横たわりながら、ふと知らず知らずわたしを思い出してしまうはずだよ。かれはわたしの最後の言葉を思い出し、きっと心動かされるだろう」

“I have given them their happiness. And she must live with the knowledge that I will live always in Tanis’s heart. What love they might find together, I have poisoned. My revenge upon them both is complete.”

「ちゃんと効果は考えてある。彼女は、タニスの胸には常にわたしが住んでいることを承知の上で生きてゆかねばならないのだ。二人がどんな愛を築き上げるにせよ、わたしはそこに毒を注いでおいた。あの二人へのわたしの復讐は完璧だ」

***

“I have given them their happiness."どう取ったらいいのか頭抱えた一文でした。そう来ますか。このように来られては、いかな激しい情熱で焼き滅ぼされた燃え殻といえども、感嘆せずにいられましょうか。


“Those you command to die shall die. Those you allow to live”--Soth’s glance flickered to the door--“shall live.”

「そなたが、死すべし、と命じた者には必ず死を与えよう。そなたが生を許した者は」――ソスは扉の方へ眼をやって――「生かしておこう」

“Remember this, of all who serve you, Dark Lady, I alone can offer you undying loyalty. This I do now, gladly.”

「お忘れなきよう――<暗黒の女卿>よ、そなたに仕える者すべての内で、不滅の忠誠を捧げられるのはわたし一人だということを。今は喜んでその忠誠を捧げよう」

“Farewell, Kitiara,”
“How does it feel, my dear, to know that you have brought pleasure to the damned? You have made my dreary realm of death interesting. Would that I had known you as a living man!”

「さらばだ、キティアラ」
「どんな気分かな、愛しい人よ、あなたは呪われし者に愉悦をもたらしてくれたのだぞ。あなたのおかげで、わが陰鬱なる死の領域が、おもしろうなった。生あるうちに、あなたと知りあいたかったものよ!」

***

 訳文では「生あるうちに」ですが、直訳すると「生身の男として」と読めます。1月27日のエントリ「かれの愛など欲しくもない」で叫んだことに、ソス卿も異存はないようですね。しかし生前のソス卿の性格からして、キティアラ様に太刀打ちできるとはとても思えませんよ。


“But, my time is eternal. Perhaps I will wait for one who can share my throne--“

「だが、わが時間はとこしえだ。待つうちに、わが玉座をわかちあえる相手もこようというもの――」

She was by herself in the darkness and for a moment she was terrified.

This was reality, hard and solid, she thought, breathing in relief.

For long moments she stood in the crumbling hallway, her fingers running over the rough metal edges of the blood-stained Crown.

 彼女は闇の中に一人残り、しばらく恐怖に包まれていた。

 これは現実だ、堅固で頑丈だ、と彼女は安堵の吐息をもらした。

 長いあいだ、彼女は崩れゆく廊下に立ちつくし、ざらついた金属の縁に指を走らせていた。血塗られた<力の冠>に。

2015年2月11日水曜日

戦記6巻p235〜 "Go!"

DRAGONS OF SPRING DAWNING p347

“Farewell, Tanis,” Laurana called to him in elven. “I owe you my life, but not my soul.”

戦記6巻p235

「さようなら、タニス」ローラナはエルフ語で高らかに言った。「助けていただいたのは“命”だけ。“心”ではなかったわ」

“Laurana!” he shouted, then in elven, “Quisalas!”

「ローラナ!」タニスは叫んで、エルフ語で続けた。「クィサラス!」

Tanis gasped in a voice as shattered as Raistlin’s had once been, “don’t leave me. Wait…listen to me please!”

 タニスは、かつてのレイストリンのようなかすれ声で喘いだ。「行かないでくれ。待って……おれの話を聞いてくれ、頼む!」

Then torchlight flared, blinding them, and a voice spoke.

 と、そのとき、松明が燃え上がって二人の眼をくらませ、そして声が響いた。

“Tell Laurana what, Tanis?” said Kitiara in a pleasant voice. “Go on.”

「ローラナに何を言うって、タニス?」キティアラが愉快げな声で、「先をおつづけ」

A naked sword gleamed in her hand. Wet blood--both red and green--glistened on the blade. Her face was white with stone dust, a trickle of blood ran down her chin from a cut on her lip. Her eyes were shadowed with weariness, but her smile was still as charming as ever. Sheathing her bloody sword, she wiped her hands upon her scattered cloak, then ran them absently through her curly hair.

 抜き身の剣が彼女の手の中でぎらついた。その刃は、鮮血――赤色、緑色両方の鮮血――でてらてらとしている。彼女の顔は砂埃で白くなり、唇の切り傷から顎にひとすじ血が滴っている。眼には疲労の隈ができているが、その微笑は今なお変わらず魅力的である。血まみれの剣を鞘に収めると、彼女は裂けたマントで両手をぬぐい、その手で無頓着に巻毛をかき上げた。

***

 砂埃に汚れ血が滴ってはいても、いやそれゆえにでしょうか、このシーンのキティアラ様が最も美しく鮮やかに想像されます。「無頓着」な割には髪を梳く前に手をぬぐっていますが。いっそ血まみれのままやってくれても、それはそれで壮絶に美しそうな気もします。


“Let her go, Kitiara,”
“Keep your promise and I’ll keep mine. Let me take her outside the walls. Then I’ll come back--“

「ローラナは行かせてくれ、キティアラ」
「君が約束を守ってくれるなら、おれも約束を守る。彼女を市壁の外へ送り届けたら、おれは必ず戻ってくる――」

“I really believe you would,”
“Hasn’t it occurred to you yet, Half-Elf, that I could kiss you and kill you without drawing a deep breath in between?”

「それはちっとも疑っていないよ」
「考えてみたことはないのかい、ハーフ・エルフ、わたしはおまえに口づけをしながら、息つく間もなくおまえを殺すことができるということを?」

***

 ほぼ同じ時刻に、同じ場所で、最愛の相手に”I can(could) kill you”と告げている姉弟。


“No, I don’t suppose it has. I might kill you right now, in fact, simply because I know it would be the worst thing I could do to the elfwoman.”

「いや、ないに決まっているな。実際、わたしはたった今おまえを殺すかもしれないのだよ、それこそ、そのエルフ女に対してわたしが加えうる最悪の仕打ちだ、というだけの理由でね」

Kitiara’s hand tousled her hair again.
“But I haven’t time.”

 キティアラは再び指で髪を梳いた。
「だが、今はその時間がない」

***

「息つく間もなく」できるくせに、余裕で髪なんか梳きながら「時間がない」って、全くもう、このお人は。


“Mine will be a vast empire. We could rule toge--“

“Lord Soth,”

「我が帝国は広大な帝国となるだろう。おまえと二人で共に治めることもできようが――」

「ソス卿か」

“Lord Soth will have to kill me to reach her, Kit. And even though I know my death will not stop him, or you, from killing her when I have fallen, with my last breath, I will pray to Paladine to protect her soul. The gods owe me one. Somehow I know that this, my final prayer, will be granted.”

「ソス卿が彼女を捕らえようとするなら、まずおれを殺さねばならないだろう、キット。そして、おれが死ねばソス卿が――それとも君が――ローラナを殺すのを止められはしないにしても、おれはいまわのきわには必ずパラダインに祈って、彼女の魂を守ってもらう。神々はおれにひとつ借りがあるのだ。これが――おれの臨終の祈りが――聞き届けられるのには、なぜだか確信がある」

Then she laid her blood-stained hand upon Tanis’s arm. “Go!” she commanded harshly. “Run quickly, back down the corridor. At the end is a door in the wall. You can feel it. It will lead you down into the dungeons. From there you can escape.”

 やがて、キティアラは血に染まった手をタニスの腕に置いた。「お行き!」と語気荒く命じる。「急いで回廊を戻るんだ。回廊の突き当たりの壁に扉がある。触ればわかる。扉の向こうは地下牢だ。そこからなら脱出できるだろう」

“A trap!”
“No,” Tanis said, his eyes going back to Kit. “Not this time. Farewell, Kitiara.”

「罠よ!」
「いや」タニスはキットに視線を戻した。「今回は、違う。さらばだ、キティアラ」

Kitiara’s nails dug into his arm.
“Farewell, Half-Elven,” she said in a soft, passionate voice, her eyes shining brightly in the torchlight. “Remember, I do this for love of you. Now go!”

 キティアラの爪がかれの腕にくいこんだ。
「さらばだ、ハーフ・エルフ」彼女は情熱的な声で低く言った。その瞳は松明の光の中で明るく輝いていた。「忘れないでおくれ、これはおまえを愛しているからだよ。さあ、お行き!」

***

 追記です。今日は帰りが遅くなりそうだったので、17時にスケジュール公開してあったんですが、お出かけ中に考えました。
 この時この姉弟は、"I can(could) kill you"と言いながらそうせず、"Remember,"に続いて自らの意図を告げるところまで同じなのですね。いかようにも訳せる"Remember"を全く同じ「忘れないでおくれ」としているのはわざとなんでしょうか?

2015年2月10日火曜日

戦記6巻p229〜 借り

DRAGONS OF SPRING DAWNING p343

“Kill me, Raistlin.” Caramon looked at his brother with eyes that had lost all expression.
Raistlin paused, his golden eyes narrowed.

“Don’t leave me to die at their hands,”
“End it for me now, quickly. You owe me that much--“

戦記6巻p229

「おれを殺せ、レイストリン」キャラモンはすべての表情を失った眼で弟を見た。
 レイストリンは立ち止まり、金色の眼を半眼にした。

「おれをあいつらの手にかけさせないでくれ」
「今すぐ止めを刺された方がいい。おまえはおれにそのぐらいの借りはあるはずだ――」

The golden eyes flared.
“Owe you!”
“Owe you!”

 金色の眼が燃え上がった。
「僕が兄さんに借り、だって!」
「兄さんに借り、とはね!」

“Know this, Caramon,” he said, and his voice was as chill as the dark waters around them. “I will save your life this once, and then the slate is clean. I owe you nothing more.”

「言っておくけれど、キャラモン」かれの声は周囲の暗い水に負けぬほど冷ややかだった。「今度だけは兄さんの命を助けるけれど、でも、これで一切は帳消しだ。ぼくは兄さんにもうなんの借りもないんだよ」

“Tanis is on his own. I have repaid my debt to him ten-fold,”
“But perhaps I can discharge my debts to others.”

「タニスは放っておいていい。タニスにはもう、借りは十倍にもして返したからね」
「でも、他の者たちには借りを清算しておいてもいいな」

“Just let me…catch my breath.”

Smiling grimly, Raistlin watched his brother stumble toward him. Then the mage held out his arm.
“Lean on me, my brother,”

「少しだけ……息をつがせてくれ」

 レイストリンは凄絶な笑みを浮かべたまま、兄がよろめきながら近づいてくるのを見ていたが、やがて、腕を差し出した。
「ぼくにもたれて、兄さん」かれは低く言った。

***

 このシーンも、シルヴァネスティの悪夢に出てきましたね。兄が弱って、自分を頼りにしているのが嬉しそうなレイスト。しかし、夢の中と違って…。


“They were fools,” Raistlin said bitterly. “The dream warned them”--he glanced his brother--“as it warned others. Still, I may in time, but we must hurry. Listen!”

「二人とも馬鹿だ」レイストリンは辛辣に、「例の悪夢がちゃんと警告していたのに」――と兄を見上げ――「あの映し夢はちゃんとみんなに未来の幻影を見せていたのに。でも、まだまにあうかもしれない。とにかく急ごう、ほら!」

Raistlin looked at his brother. He saw him holding Tas in the big hands that could be so gentle.

 レイストリンは兄を見た。兄が、そんなにも優しくなれる大きな両手でタッスルを抱きかかえているのを見た。

Thus he has held me, Raistlin thought. His eyes went to the kender. Vivid memories of their younger days, of carefree adventuring with Flint…

(キャラモンはこんなふうにぼくを抱いてくれたものだ)とレイストリンは思った。かれの眼は<ケンダー>に移った。脳裏に鮮やかに蘇るものがあった。みんなで過ごしたあの若き日々。フリントに連れられて旅してまわった呑気な冒険の数々……

…now dead. Sturm, dead. Days of warm sunshine, of the green budding leaves on the vallenwoods of Solace…Nights in the Inn of the Last Home…now blacked and crumbling, the vallenwoods burned and destroyed.

 そのフリントはもういない。スタームも死んだ。暖かな陽射しの日々、ソレースのヴァレンウッドに芽吹く緑の若葉……<憩いのわが家>亭の夜……。あの宿屋ももう黒く崩れ落ち、ヴァレンウッドの森ももはや焼き払われた。

“This is my final debt,”
“Paid in full.”

「ぼくの最後の借りだ」
「これで借りはすべて贖ったよ」

“And--after all--empty pockets hold more, as my mother used to say.”

「それに――結局――『ポケットは空のほうがよくはいる』って、母さんがいつも言ってたもの」

“I’m sorry, Flint,”
“Just wait for me a little longer.”

「ごめんよ、フリント」
「もうちょっとだけ待っててね」

2015年2月9日月曜日

戦記6巻p221〜<永遠の男>

DRAGONS OF SPRING DAWNING p339

“Jasla, I am coming!”

Indeed, it seemed less real than a dream.

戦記6巻p221

「ジャスラ!今いくよ!」

 まさしく、これは夢以上に非現実的だった。

Perhaps it was his fevered imagination, but as the Everman neared the jeweled column, the green jewel in his chest seemed to glow with a light more brilliant than Raistlin’s burst of flame.

 おそらくキャラモンが熱のせいで抱いた幻覚かもしれないが、しかしベレムが宝石柱に近づくにつれ、その胸の緑宝石が、レイストリンの炸裂させた炎よりもさらにまばゆさを増してゆくように見えた。

Within that light, the pale, shimmering form of a woman appeared inside the jeweled column. Dressed in a plain, leather tunic, she was pretty in a fragile, winsome way, very like Berem in the eyes that were too young for her thin face.

 その光の中で、宝石柱の内部に青白くゆらめく女性の幻像が浮かび上がった。簡素な革の短衣を着たその女性は、華奢ながらも快活な風で愛らしく、痩せた顔に比べて若すぎる眼がベレムにそっくりだった。

Caramon no longer felt the chill of the air or the water or the pain of his wounds. He no longer felt fear, despair, or hope. Tears welled up in his eyes, there was a painful burning sensation in his throat.

 キャラモンはもはや空気と水流の冷たさも、傷の痛みも感じなかった。恐怖も、絶望も、希望ももはや感じなかった。涙がわきあがり、喉に焼けるような熱いものがこみあげてきた。

Berem faced his sister, the sister he had murdered, the sister who had sacrificed herself so that he--and the world--might have hope. By the light of Raistlin’s staff, Caramon saw the man’s pale, grief-ravaged face twist in anguish.

 ベレムが妹に面している。自分が殺した妹に。兄を――そして全世界を――救うためわが身を犠牲にしてきた妹に。レイストリンの杖の明かりでキャラモンは、ベレムの悲嘆にやつれた青白い顔が苦悩に歪むのを見た。

“Jasla,”
“can you forgive me?”

「ジャスラ」
「おれを許してくれるか?」

There was no sound except the hushed swirl of the water around them, the steady dripping of moisture from the rocks, as it had fallen from time immemorial.

 あたりに聞こえるのは、静かな水のざわめきと、太古から変わらず岩から滴り落ちてくる、着実なしずくの音だけだった。

“My brother, between us, there is nothing to forgive.”

「兄さん、わたしたちのあいだでは、許さなければいけないことなんて何もないのよ」

The image of Jasla spread her arms wide in welcome, her winsome face filled with peace and love.
With an incoherent cry of pain and joy, Berem flung himself into his sister’s arms.

 ジャスラの幻像が、迎えるように両腕を大きく広げ、晴れやかな顔に平和と愛情をみなぎらせた。
 ベレムは苦痛と喜びの入り混じった叫びをあげ、妹の腕の中にわが身を投げた。

Caramon stared at Berem. The body lay crushed upon the rocks. It stirred slightly, as if breathing a final sigh. Then it did not move. For an instant two pale figures shimmered inside the jeweled column. Then they were gone.
The Everman was dead.

 キャラモンはベレムを見つめた。ベレムは無惨に岩の上に倒れていた。そのからだが、最後のため息をつくようにかすかに動いた。そして、二度と動かなくなった。一瞬、二つの青白い人影が、宝石柱の内部に浮かび上がり、やがて、消えた。
<永遠の男>は死んだ。

***

「兄さん、わたしたちのあいだでは、許さなければいけないことなんて何もないのよ」

 同時期に読んでいた「イルスの竪琴」第2巻「海と炎の娘」の、あのクリティカルなシーンと同じくらい、印象的で、忘れがたい言葉でした。ああファンタジー万歳。

 殺し殺されながら愛し合っていた兄妹の再会と死を見つめるキャラモン。あなたがそれを勝ち取るのはまだ先です。ジャスラとベレムが耐え忍んだほどには長くない時間と、大いなる闇を越えた先にあるのですよ。

2015年2月8日日曜日

戦記6巻p215〜 守護者

DRAGONS OF SPRING DAWNING p335

“Yes, my brother,” said Raistlin, answering his brother’s thoughts, as usual. “It is I--the last guardian--the one you must pass to reach your goal, the one Her Dark Majesty commanded be present if the trumpets should sound.”

戦記6巻p215

「そうだよ、兄さん」レイストリンは、いつもどおり兄の考えに答えて言った。「ぼくなんだよ――最後の守り手は。そして、兄さんが目的地にたどり着くためにはどうしても通過しなければならない関門であり、また、万一角笛が響けばこの場に居合わせるよう<暗黒の女王>の命令を受けた者なんだ」

Raistlin smiled derisively. “And I might have known it would be you foolishly tripped my spelltrap….”

 レイストリンは自嘲的に笑った。「予測しておいて然るべきだったな、ぼくの呪文の罠にとびこんでくるような愚か者は兄さんだろうって……」

“You wear the Black Robes now?” he asked through parched lips. “I can’t see…in this light….”

「おまえは今では<黒いローブ>を着ているのか?」かれはからからの口で訊いた。「よく見えないんだ……暗くて……」

“Yes, my brother,” Raistlin replied, raising the Staff of Magius to let the silver light shine upon him. Robes of softest velvet fell from his thin shoulders, shimmering black beneath the light, seeming darker than the eternall night that surrounded them.

「そうだよ、兄さん」レイストリンはマギウスの杖を差し上げて、銀色の光が自分に当たるようにした。薄い方にまとった極上の天鵞絨のローブが明かりの下で黒いつやを放ち、周囲の永劫の夜よりもさらに黒く見えた。

“I don’t understand--“
“No, of course not, dear brother,” Raistlin said, with a touch of the old irritation and sarcasm.

「おれには理解できん――」
「それはそうだろうね、大事な兄さん」レイストリンの声には、以前と同じいらだちと皮肉な調子があった。

The golden, hourglass eyes narrowed, Raistlin’s voice grew soft. No longer forced to whisper, the mage yet found whispering more compelling.

 砂時計のようにくびれた金色のその眼がすっと狭まり、レイストリンの声は低くなった。もはやささやき声を強制されていないのに、レイストリンは、ささやくほうが人に言うことをきかせやすいのに気づいていた。

“No, I am not lying,”
“Not that I can’t lie when it suits my purposes. But you will find, dear brother, that we are close enough still so that I cannot lie to you. And, in any case, I have no need to lie--it suits my purpose that you know the truth.”

「違うよ、ぼくは嘘をついていない」
「でも、嘘がつけないというわけじゃない。大事な兄さんにもいずれわかると思うけれど、ぼくらがいまだにとても緊密な関係にあるから、だからぼくは兄さんに嘘がつけないんだ。それに、いずれにせよ、ぼくには嘘をつく必要がない――兄さんに真実を知ってもらうことは、ぼくにとって好都合なのだから」

“You can’t kill him”--Caramon hoped devoutly Berem was listening and would act when it was time--“only your dark Queen can do that, I suppose. So that leaves--“

「そして、おまえにはベレムは殺せない」――キャラモンは、どうかベレムがこの言葉に耳を傾けていてくれるように、そして機会がきたら行動してくれるように、と必死で願った――「ベレムを殺せるのは、おまえの<暗黒の女王>だけのはずだ。違うか?ならば、残るのは――」

“You, my dear brother,” Raistlin said softly. “Yes, I can kill you….”

「君だよ、親愛なる兄さん」レイストリンはそっと言った。「そうだよ、ぼくは兄さんなら殺せる……」

“With Tanis’s unwitting help, I was able to rid myself of the one man upon Krynn who could have bested me. Now I am the most powerful force for magic in this world. And I will be more powerful still…with the Dark Queen gone!”

「タニスが自分ではそうと知らずに手伝ってくれたおかげで、ぼくは、クリン上でぼくを負かせる唯一の男を排除することができた。今ぼくは、魔法に関してはこの世で最強の存在だ。そして、さらに強力になるのだ……<暗黒の女王>が失せれば!」

“Remember, my brother”--Raistlin’s voice echoed in Caramon’s mind--“this happens because I choose it to happen!”

「忘れないでおくれ、兄さん」――レイストリンの声がキャラモンの頭の中で反響した――「この結末は、ぼくがこうなるよう選んだものなのだよ!」

***

“this happens because I choose it to happen!”
「ぼくがこうなるように選んだからだ」

「魂の戦争」以前に、「伝説」以前に、この時点で既に世界の運命を手にしていたレイストリン。いや、《九英雄》の一人一人が、少なくとも一度はそれを手にしていましたね。ああ、だから九英雄だったのか。初読時、なぜティカやローラナが入らずキティアラが入っているのか不思議だったんですが、やっと納得しました。

 どうでもいいですがレイストリン、この引用部分だけで"my brother"を3回、"dear brother"を2回、さらに"my dear brother"と1回言ってます。それも"softly"に、それもあんな文脈で。ああもうこの弟ときたら。そうかそんなに淋しかったんだね。

2015年2月7日土曜日

戦記6巻p206〜 支配者

DRAGONS OF SPRING DAWNINGp330

“Stop!”
“Stop him, Kitiara, or with my last dying strength I will hurl this into the crowd.”

戦記6巻p206

「とまれ!」
「かれを止めろ、キティアラ。さもないと、おれは死ぬ間際に力をふるってこの冠を群衆の中へ放り込むぞ」

“What ‘dying strength’?”
“My magic will shrivel your body to dust, the Crown will fall at my feet.”

「『死ぬ間際の力』とは何かね?」
「我が魔術でそなたは一瞬で塵と化す。さすれば、冠はわが足元に落ちるのみ」

“Lord Soth,”
“halt. Let him who won the Crown bring to me!”

「ソス卿」
「控えよ。冠を勝ち得しものに、その冠をわがもとへ持ち来たらせよ!」

Tanis glanced at Lord Soth, who slowly lowered his deadly hand. “He is your master, still, my lady,”

 タニスはちらとソス卿を窺った。ソスは死を呼ぶその腕をゆっくりとおろした。「わが女卿よ、この男は依然としてあなたの主なのだな」

Whoever has the Crown, rules, but that could all end in the dead of night with one thrust of an assassin’s dagger!

『この冠を持ちたるものこそ支配者なれ』――だが、その支配力とは、夜中に暗殺者に一突きされればすべておしまいのものなのだ!

“Truly you and I were meant to rule together! You were wonderful, magnificent! I will give you anything…anything--“

“Laurana?”

「まさしく、おまえとわたしはともに支配するべく定められていたわけだ!でかしたぞ、素晴らしい!なんでも望みのものを取らせよう……なんなりと――」

「ローラナは?」

“If you want her,”
“But you will have me, Tanis. By day we will command armies, rule the world. The nights, Tanis! They will be ours alone, yours and mine.”

「それが望みならばな」
「だが、おまえにはわたしがいるではないか、タニス。昼は二人で軍隊を指揮し、世界を支配する。そして、夜には!夜は二人だけのものだ、タニス、おまえとわたしだけの」

“No, Kitiara,”
“One of us will rule by day and by night--me.”

「いや、キティアラ」
「昼も夜も、支配するのは唯一人――このおれだ」

***

“One of us will rule by day and by night”
 噛めば噛むほどに、邦訳とは違った意味が沁みてきます。その前のキティアラ様の台詞も。それにしても<力の冠>の支配力って何なんでしょう?ただの象徴ではないでしょうけれど。<暗黒の女王>の寵あって初めて効果が発揮されるものなんでしょうか?